15 猫
コンビニへは歩いて五分ほどだ。そう遠い距離じゃない。なのに兄は連れていってくれと頼んできた。リュックサックに入るのが気に入ったらしい。
おにぎりをいくつかと、チキンを買い、ビニール袋をぶら下げて、歩道を歩いていた。
すると、一匹の黒猫が現れた。すぐ逃げるかな、と思って見ていたのだが、黒猫は僕の足にまとわりついてきた。
「よしよし」
僕はしゃがみこんだ。猫は好きだ。僕は黒猫のアゴを撫でた。柔らかな毛並みがたまらない。首輪はない。野良だろうか。
「お前、迷子なの?」
黒猫は答えない。ただゴロゴロと喉を鳴らすだけだ。ペット可のマンションなら連れて帰れたな、なんて考えていたときだった。
突然、黒猫が背負っていたリュックサックに飛びかかった。
「うわぁ!」
兄が叫び声をあげた。僕は慌てて立ち上がった。なおも黒猫は飛び上がってリュックサックを狙っていた。僕は駆け出した。
「はぁ、はぁ……」
マンションのエレベーターホールで息を整えた。兄が聞いてきた。
「さっきの何だったんだ?」
「猫だよ。兄ちゃんのことに気付いたのかもしれない」
「おっかねぇなぁ。奏太、猫にはもう近付くなよ」
昼食をとり、兄を持って風呂場に行った。僕も服を脱ぎ、自分のことも洗いながら、兄のヒゲを剃ってやった。もう慣れてきた。
身体を拭き、しばらく裸のまま兄と戯れた。僕のお腹の上を転がしてやると、兄は嬉しそうに笑った。
「あーあ、さっきの猫、狂暴じゃなかったらなぁ」
「奏太は本当に動物が好きだな」
「ペット飼えるところに引っ越して、保護猫でも飼いたい」
「やめろよ、兄ちゃんがオモチャにされるのが目に見えてる」
「身体なくなっちゃうと何にもできないもんね。兄ちゃんは今の方が可愛いよ」
キスするタイミングも僕の思い通りだ。たっぷりと唾液を絡ませ合い、僕は満足した。
「奏太、兄ちゃんのこと捨てないでくれよ」
「わかってる。僕にも兄ちゃんが必要だもん。ずっと飼ってあげるからね。でも、僕が死んだら兄ちゃんはどうなるんだろう」
「さあな。まあ、いいじゃないか。そんなに先のことは考えなくてもさ」
兄に食事を与え、僕は服を着た。兄の髪を撫でながら、黒猫のことを思い返していた。確かに生首と猫の同居は難しそうだし、このまま兄だけを飼い続けようと思った。
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