14 月
その日は朝から気分がどんよりとしていた。天気のせいもあるだろう。しとしとと雨が降っており、食事をする気にもならなかった。
兄にはタブレットで映画を見せておいて、僕は音だけ聞きながら、ベッドの上でぼんやりとしていた。
身体は埋め終わり、兄の上司とも一応は話し、僕が兄を殺したことはもう誰にもわからないはずだった。
しかし、あとは自分の仕事や、兄の家の片付けたをどうするかという問題が残っている。特に仕事。次に精神科に行ったとき、休職期間を延ばしてもらおうか。
「奏太、何だか今日は口数が少ないな」
「疲れてるんだよ。色々と考えることもあるし」
「眠り、浅いんじゃないのか。薬ちゃんと飲んでるのか」
「飲んでない……」
「飲めよ。兄ちゃん心配だ」
昼になり、ゼリー飲料と一緒に薬を飲んだ。そしてまた、横になった。兄は続けて映画を観るのはしんどいのか、もうタブレットはつけなくていいと言った。
そして、僕は兄を抱えて目を閉じた。眠りは訪れてこなかったが、こうしているだけでも身体は休まると聞いたことがあった。
雨音は激しくなっていた。僕も兄も何も喋らず、時が過ぎていった。いつの間にか、意識を手放していたようで、目を開けるともう夜だった。雨はあがっていた。
「兄ちゃん、月が見えるよ」
僕は兄を小脇に抱えながらベランダへ出た。そこに置いてあったサンダルは雨に濡れてしまっていたが、構わずそれをはいた。
「ほら、綺麗」
兄を高く掲げた。
「そうだな。昼間はあんなに降っていたのに、雲ひとつないや」
「兄ちゃんは月って好き?」
「そんなに好きじゃない。月って地球からだと同じ面しか見せないだろう? それが気にくわない」
僕は兄を腕の中に入れて言った。
「月の裏側、か」
「まあ、人間もそんなとこあるけどな」
「けど僕は兄ちゃんの裏側を見た」
「兄ちゃんも奏太の裏側を見たよ」
僕たちは、この世界で二人っきりの兄弟だ。兄は生首になってしまったけれど、こうして側にいてくれる。
「奏太、冷えるぞ。早く戻ろう」
「そうだね」
ようやくお腹がすいてきた。僕は冷凍のうどんを作って食べた。薬もきちんと飲んだ。兄にも食事をさせ、そのまま丸くなって兄の頬をさすっていた。
「明日はヒゲ剃ってあげる」
「よろしく。奏太も明日はシャワー浴びろよ」
「そうする」
異常な生活をしているとはわかっていた。でも、これが僕の現実だ。カーテンから漏れる月の光が、僕と兄を照らしていた。
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