07 まわる
スーパーに買い出しに行った。僕は自炊はしない。冷凍食品をたんまり詰めて、帰宅した。
「兄ちゃん、ただいま」
「お帰り奏太」
「ビールも買ってきたよ。飲む?」
僕は缶を開け、兄の口に持っていった。
「あー、ダメだ。あんまり飲めない」
「そうなんだね」
胃もないし当然か。というか、飲み込んだものはどこに消えているのだろう。まあ、喋る時点でどうかしているが。
「残り勿体ないし奏太が飲めよ」
「うん……」
酒は飲めるが好きではない。でも、確かにこのまま捨てるのは気が引けたし、僕は苦味を感じないよう一気に飲み込んだ。それが悪かった。
「ダメだ……酔った……」
ベッドに仰向けになり、天井を見つめた。ぐわん、ぐわん、と脳が揺れているようだ。幸いなことに吐き気はしなかった。
「奏太、とりあえず水分取れよ」
「わかってるよぉ……でも冷蔵庫遠い……」
こういうとき、取ってきてくれないので、生首と暮らすのは不便だ。身体を起こすのが億劫になってしまったので、兄を抱き締めて、しばらくじっと耐えていた。
まわる、まわる。世界がまわる。
「兄ちゃん……何で人間って酔うんだろうね……」
「まあ、人生のちょっとしたスパイスだ。酔っているときは、多かれ少なかれだらしなくなる。そこで人間の底が知れるわけさ」
「なるほどねぇ……」
僕は下着をおろし、腰を浮かせた。
「あはっ……はぁ……」
「あっ、始めやがった」
「兄ちゃん、見ててよ、兄ちゃん……」
兄を特等席に移動させ、見せつけた。兄が生きていた頃も、目の前でやらされたことがあったが、今回は酔いのせいもあってか大胆になれた。
「奏太、やらしー。まあ、そんな身体にしたのは兄ちゃんなんだけどな」
「ありがとう、兄ちゃん……」
僕は兄の顔にかけた。兄はしかめっ面をして、口元をぺろりと舐めた。
「まったく、出すときは言えよ。目に入ったらどうするんだ」
「ごめんね、兄ちゃん。ごめんねぇ……」
ウェットティッシュで兄の顔を拭いてやった。いくらか意識のハッキリしてきた僕は、ミネラルウォーターを出してぐびぐびと飲んだ。
「あー、二日酔いになりそう」
「薬とかあるのか?」
「一応。でも買っておかなくちゃ、残りそんなになかったと思う」
引き出しをあさると、二錠だけ鎮痛剤が出てきた。それをローテーブルの上に置いておき、僕はベッドに横になった。
「僕、もう今日は寝るよ」
「その方がいい。抱き締めてくれよ」
「うん」
もうこんな夜にも慣れた。これからずっと続くのだろう。僕が死ぬまで、永遠に。
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