06 眠り

 僕の寝相が悪かったのか、昼前に起きてみると、兄の生首は床に転がっていた。それでもイビキをかいて寝ていたので大丈夫だったらしい。

 兄をベッドの上に置き、カップラーメンを食べた。そろそろスーパーに買い出しに行かねばならない。しかし、今日はもう外に出る気になれなかった。

 僕は眠る兄の頬を指でつんとつついた。反応はなかった。


「兄ちゃん、そろそろ起きてよ」


 さらにつんつんとつつく。それでもダメだった。パシリと叩いてみた。口の端を歪めるだけだった。


「ねえ、兄ちゃん。大丈夫? そんなに眠いの?」


 兄の身体を全部埋め終わったのと関係があるのだろうか。生首との生活はわからないことだらけだ。

 仕方がないので、僕もベッドに入った。兄を抱えて。肺もないのに、すう、すう、と息をするのが不思議だった。

 僕は兄との日々を思い返していた。ここ一年のことを。僕の身体は兄によって開発され、容赦なく兄のものを受け入れさせられた。

 もう僕は、今後誰ともセックスをすることはないだろう。どんな男性にも女性にも興味はないし。今は兄の生首を世話することで頭がいっぱいだ。


「兄ちゃん。兄ちゃん」


 相変わらず兄の返事はなかった。このまま目覚めなかったらどうすればいいだろう。

 夕方になるまで、僕はじっとしていた。眠り続ける兄を抱えて。トイレに行こうと思い、一旦兄をベッドの上に置いた。戻ってくると、兄は大きなあくびをして目を開けた。


「良かった。兄ちゃん、ずっと寝てたから……」

「ああ、そんなに寝てた?」

「そうだよ。心配したんだから」


 僕は兄の額にキスをした。兄は言った。


「歯がゆいな、身体がないのって。今すぐ押し倒してぶち込んでやりたい」

「残念だったね。もうできない」


 そして兄に食事をさせた。喉の奥までくわえさせて、一気に注ぎ込んだ。兄はむせた。


「けほっ、けほっ……」

「きちんと飲み込んでよね」


 生首だけになってしまった以上、もう僕の優位だ。だからそんな口がきけた。


「奏太、ありがとう。愛してる」

「僕も愛してる」


 夕食は取る気分じゃなかった。僕は再び兄を抱えた。すると、すぐに彼は眠ってしまった。

 しばらくして、僕のスマホが振動した。知らない番号からの着信だったが、それに出た。兄の上司からだった。僕は何も知らない、聞いていない、僕からも兄に連絡をしてみるということで電話を切った。

 兄の部屋も、何とかしなければならないな。しかし、それはもう少し経ってからでいいかと思い、僕も兄と共に眠ることにした。

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