3. 秘密の製法

  3.秘密の製法


夜明け前

北部シルベスタン地方


 大きな平原に濃い霧がかかっている。この「朝方の濃い霧」は、この時季のシルベスタン地方を象徴する気象現象である。日が昇れば上昇気流に乗って立派な雲になり、雨となって街や山々を潤している。この時季のシルベスタンは、霧と雨の街なのである。


 その平原の片隅に、アルポンの姿があった。

「へへへっ、思った通りだっ。」

 車から降りると、大きく深呼吸をした。

「う~んっ、やっぱり出来立ては美味しいなぁ。」

 霧を含んだ空気を胸いっぱいに吸い込み、とても満足げな様子。

「よ~し、始めるかっ。美味しいものは美味しいうちにね、っと。」

 なにやら車からホースを伸ばすと、すぐさま機械のスイッチを入れた。すると「ウゥ~・・・ン」という低い音と共に勢いよく霧を吸い込みだした。

「それぇ~、どんどんやれ~っ。」

 驚くことに、平原いっぱいにあった霧はものの数十分でキレイに吸い取られてしまった。

「よしっ、こんなもんかな。へへっ、これで今日も美味しいのが作れるぞぉ。」

 アルポンはこうして集めた霧や雲で、あのソフトクリームを作っているのだった。



【ニュース】

「続いては『街角話題の人』のコーナーです。今日はどこへ行ってるのかなぁ、マキナさぁん。」

「はぁ~いっ。私は今シルベスタン中央駅の駅前広場に来ていま~す。こちらはこの時季には珍しく澄んだ青空が広がっていて、とっても過ごしやすいですよ~。はい、本日の『街角話題の人』はこの駅前広場でソフトクリームの移動販売をしているアルポンさんです。どうもこんにちは~。」

「こんにちは~、今日はよろしくお願いしますっ。」

「アルポンさんはこの移動販売車で全国をまわりながら各地の食材を使ってソフトクリームを作っているんですよね。」

「はい、旬を追いかけながらコイツで走り回ってますっ。」

「各地で、地域性というか特色のようなものがあると思いますけど、このシルベスタンの食材はどういう特徴がありますか?」

「う~ん、やっぱり透明感かなぁ。組み合わせた他の食材を良さを、引き立ててくれます。」

「では、私も早速そのソフトクリームをいただいてみま~す・・・ん~っ、とっても滑らかでス~っと溶けていきますねぇ。」

「へへへっ、よく『雲のような口溶けだ』って言ってもらってます。」

「なるほど~『雲のような』ですか、まさにその通りだと思いますっ。甘さ控えめでとっても美味しいです。」

「へへ、ありがと。」

「この滑らかな口溶けの秘密なんて、教えてもらえませんよねぇ?」

「ははは、そんなの教えられないよ~。これ話しちゃったら、みんなマネしちゃうもん。だから秘密は秘密っ。」

「それもそうですね・・・と、こうしている間にも次々とお客さんがいらして行列ができてしまったので・・・アルポンさん、ありがとうございました。」

「はぁい、しばらくはここで出してますので皆さんも是非どうぞ~。」

「え~、このように・・・今も続々とお客さんがいらしてますが、各地でこのような人気を集めながら全国の旬の食材で美味しいソフトクリームの移動販売をしているアルポンさんをご紹介しました。次はあなたの街で出会えるかもしれませんよ~。」

「マキナさ~ん、美味しそうでしたねぇ。」

「はい。えぇ、本当にですねぇ、雲のような滑らかな口溶けで美味しかったですよ~。私もう一ついただきたいので、あとで行列に並びま~す。」

「いいなぁ、持ってきて・・・って訳にはいかなでしょうから、あとでこっちに寄ってもらえるように言ってもらえません?」

「あ、はい。あとでお願いしてみます。」

「よろしくお願いします。はい、今日の『街角話題の人』はソフトクリームの移動販売のアルポンさんをご紹介しました。マキナさぁん、ありがとうございました~。」

「は~い、ありがとうございました~。」

「え~、続きましてはお天気。気象観測士のクロイスさんです。よろしくお願いします。」

「はい、よろしくお願いします。え~、先ほどのマキナさんの中継の冒頭でも少しありましたように、このシルベスタン地方ここ一週間例年に無い快晴が続いてまして、我々気象関係者驚いているところであります。」

「あの~、晴れるのは悪いことじゃないと思うんですけど・・・洗濯物もよく乾きますし。」

「えぇ、確かにこの季節洗濯物が本当に乾かなくて困りものなんですが、こうも晴れが続いてしまうのもまた困りものでして・・・。」

「ほう・・・。」

「ご存じのように、このシルベスタン地方を含む北部は大きな『水がめ』のようになってまして、この時季に降る雨が中部から南東地方にかけてのほぼ一年分の水源になっているんですね。ですからこのまま晴れが続くと夏場にかけての水不足が心配になってきます。」

「えぇえぇ。では、この後のお天気は・・・。」

「はい、ではまず週間予報から行きましょうか。え~、この先は例年通りの雨の予報なのですが、先週お伝えした週間予報を振り返るとですねぇ・・・こちら、ずっと雨の予報を出していたのですが・・・」


   ー 完 ー


 ・・・あとは自分で考えること。

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雲の旅人 ~あの暑い日に食べたソフトクリームが村の畑を干上がらせた 八木☆健太郎 @Ken-Yagi

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