爆と死
私の意識が戻ったのは、爆弾が爆発するまでもう1時間を切った頃だった。身体の痛みがぶり返した。
もう片足も切断され、片目もくり抜かれ、生爪もはがされ、歯も一本抜かれた。もう生きているのがしんどい。いっそうのこと殺して楽にしてもらいたい。
「意識が戻りましたか」
お面男の声がした。
「ああ、全身が痛い」
「またモルヒネでも飲みますか」
「そうしたい」
私がふと足元を見ると切断された足が止血のためか、包帯が巻かれている。治療でもしたのか? なんのためだ。どうせ死ぬのに。
元プロレスラーが水のペットボトルと錠剤を持って来た。手錠をしたままの手でそれを受け取って飲む。
「止血と応急処置は彼にやってもらいました。失血死されると困るので」
「おい、もう、こっちは片足と片目と爪一枚と歯を一本抜かれてるんだぜ。いつ死んでもおかしくない」
「いや、それでも最後まで戦って欲しいんですよ。生きるということに対して。あなたは今まで人の命についてどう考えてました?
あなたのパソコンの文書を色々見せていただきましたが、自分の影響下で人が自殺したり殺されたりしたことで万能感を得たり、神になった気分になっていたんですよね。
そんな人がそんな弱音吐いて、しおらしく死ぬなんて、おかしな話ですよ。
あなたはあと1時間のうちにもう一本の足を斧で叩き切り、這いずり回って爆弾の青い線を引き抜いて、鍵を開けてここを出て行かないといけないんですよ。
私だって殺人者にはなりたくない。未遂と既遂では全然違いますしね」
「もういいよ、爆死する方を選ぶ。なんで片目と片足にされてまで生きなきゃならないんだよ」
「それはあなたが、身代わりを殺せば生き延びられるという文言を入れたからですよ。それは救済ですから、私もあなたを救済しなくてはならないのです。
あなたは自分の命の身代わりに、もう一本の足を差し出さなくてはいけないんですよ。そうでないと、あなたの動画のせいで人を殺した人たちが報われません。
あなたは私に左足という身代わりを差し出さなきゃならないのです」
「嫌だね。俺は身代わりなんて差し出さない」
「やれやれ。頑なですね。では、爆発前にあなたの足を彼に切り落としてもらうことにします。あなたの意思とは関係なく、代償はいただきます。そしてあなたは生きるのです。床を這いずり回って必死になって」
「どちらにしても切られるのかよ。だったら少し考えさせてくれ。俺は俺のタイミングで足を切断されたい。そのタイミングを考えるから、しばらく黙ってていいか?」
「まあ今は視聴者数も安定してますし、それは良いですけど、少し喋りませんか? また同世代のあるあるを言いたいです。
未だに太平洋戦争を体験してると思われてるとか。戦後何年経ってから生まれたと思ってるんだよ、みたいなやつを」
私は黙っていた。私は自分が何をなすべきか考えていたのだ。例えばこの元プロレスラーを殺したらどうなるのか、とか。こいつは私の右足と眼球を奪ったのだ。ぶっ殺してやりたい。
「ねえ、何か話して下さいよ」
「••••••••••••••••••」
「会話きらいですか?」
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