脳と天
また歯の生えたひな人形のお面をかぶった男の画像に戻った。
「どうでした? こんな動画を見せられて。頭がおかしくなりました?」
「ならないね。自分がやったことだからな」
「そうですか、狂って死んで欲しかったのに。みんな言ってますよ。あなたの奥さんも、息子さんも娘さんもお孫さんも、あなたに狂って死んで欲しいと言ってますよ。♫死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで、狂って狂って狂って回るううううう♫」
「円広志の夢想花に乗せて歌うなよ」
「やっぱり同世代。わかってもらえましたね」
「なあ、何を言われても俺は狂わないし、死なないよ」
「なら両足を切断しないと。ハイハイして爆弾止めて、鍵を取らないと」
「足よりもまず足錠だ!」
私は斧を足錠に振り下ろした。何度も何度も振り下ろした。するとごきっと音がして、斧の刃の真ん中辺りが欠けて、歯抜けのようになった。
「あーあ、そうなると余計痛いですよ、なかなか切断出来なくなって」
私は肩で息をしながら、一旦斧を置いて座り込んだ。
「まだ3時間ある。それまでには何か考えが浮かぶ。今までだってそうだった」
「今までとは状況が違うでしょう。あ、視聴者数が10000人超えましたよ。じゃあ、ひとつ条件を追加しましょう。視聴者数が10000人を割ったら、無条件で爆弾が爆発するというのはどうです?」
「タイマーセットしてあるんだろ。遠隔操作なんて出来んのか?」
「出来ますよ、さっきやって見せたじゃないですか」
再び地下室の奥で爆発が起き、地震のような縦揺れがして、また鼓膜を破るような音と爆風が来た。熱風だ。火傷をしそうなほどだ。
「ね、出来るでしょ」
「ちょっと待て。じゃあ10000人を割ったら本当に爆発させるのか?」
「ええ、あなたに死んでもらえばいいことですし。生き延びられるという選択肢をつけたのは、あなたが動画に身代わりを殺せば生き延びられるという、ある意味救済的な文言を入れたからですよ。でもその文言のせいで、うちの娘は殺されましたが」
「それは悪かった。でもあの女が実行犯なんだからな」
「まあ殺人教唆ですが」
「そうかな? まあいい。じゃあ視聴者が10000人を割らないためには何をしたらいい?」
「とりあえずは指を一本落としてみるとか」
「とりあえず指? もうちょっと何かないのか?」
「じゃあ生爪を一枚ずつはがすとか、歯をペンチで抜いていくとか。捕まったスパイが拷問される的な」
「そんなんで視聴者を引き留められるのか?」
「まあ、しばらくは」
「じゃあペンチをくれ」
「わかりました。持って行かせます」
しばらくすると扉の施錠がガチャガチャいいながら開き、やっぱり歯の生えたひな人形のお面を被った大男がペンチを片手に入って来た。
男がペンチを手渡そうとすると、私はいきなり立ち上がって、手錠で男の首を締め上げた。
「おい、こいつを殺すぞ。締め落とされたくなかったら、爆弾を今すぐ止めろ」
「お、いいですね。今ので1000人近く増えましたよ」
「戯れ言はいい。早く爆弾を解除しろ」
「それは、無理ですね」
「どうしてだ?」
「その人、元プロレスラーですから」
私はいきなり鳩尾(みぞおち)にひじ打ちを入れられた。息も出来ずに、手錠で締めていた首を離した。男は私の背後に周り、首をその太い腕で締め上げた。い、息が出来ない。
「あっ、もういいです。力を緩めて下さい」
お面の男がそう言うと、元プロレスラーは力を弱めた。そして私を床にぶん投げると、斧を手に持った。
「何するんだ、やめてくれ」
男は何も言わずに斧を振り上げて、まるで木こりのように私の右足に振り下ろした。
「ぐがあっっ!」
骨を叩き割って、私の足は切断された。脳天を突き抜ける痛みが再び襲った。血しぶきが飛び、足首が床に転がった。
「これで残り、足一本ですね。さて盛り上げていきましょうか」
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