轟と二郎

「なんだって?」

「配信中ってことです。まだ視聴者数が10,000もいかないけど、コメントはひどいですよ。ジジイ最悪とか、孫の足にすりすり!? ど変態! この殺人野郎とかいう散々なコメントが行き交ってますよ」


「今のをみんなに見られたのか? だったら警察が動くだろう。私は警視だった男だ」


「動くでしょうが、ここが特定されるまでに、あなたは爆死すると思いますよ。お孫さんはもう目を覚さないかもしれませんし」


「そんなことはない。陽菜、おい陽菜、目を覚ませ。なあ、せっかく両足を切断した意味がないだろう。なあ頼むから起きてくれ、陽菜ぁっ!」


「叫んでも届きませんよ。あ、等々力さんって、昔テレビのびっくり日本新記録に出てませんでした?」

「それは轟二郎だ。漢字が違うだろ。もう亡くなったしな」

「さすが同世代、話が通じますな」


「お前と通じても仕方ないんだよ。早くここから出ないと。陽菜さえ起きてくれれば」

「お孫さんが起きなくても、助かる方法がありますよ」


「なんだよ、どうすればいいんだよ」

「簡単です。あなたが自分の両足を切り落とすんですよ。ご自分の手で」

 

 私はごくりとツバを飲み込んだ。


「お孫さんの足を切断したんだから、要領はわかってますよね? お孫さんの一太刀でもう半分肉がえぐれてるんだから、あとちょっと手を加えるだけですよ」


 そうだ。私の足は肉がえぐれられているのだ。骨も見えている。激痛が戻って来た。孫の足を切り落とすことで脳内にドーパミンが出ていたのか。


「もうそれしかないですよ。あ、さっき編集した動画見ます?」

「動画?」


 パソコンの画像が切り替わり、陽菜が振り下ろした斧を、私が両腕に架かった手錠で受け止め、それをひねって斧を落とさせて、私はそれを拾った。


 私はこんなことを言っていた。


「陽菜。陽菜の足を切り落とそう。おじいちゃんそう決めたから。足を切り落としたら、赤ちゃんの頃みたいにハイハイして、爆弾の青い線を引き抜いて、鍵を取って来なさい。


そしてまたハイハイして戻って来るんだよ。あの頃は可愛かったな、陽菜。今は生意気になり過ぎた」


「ちょっと本気? マジで私の足を切り落とそうとしてるの? 孫だよ、可愛い孫だよ」

「大嫌いなおじいちゃんなんだろ」


「そんなことないよ、さっきはごめん」

「じゃあ一緒にお風呂に入って、久しぶりに体を洗いっこするか。それともあの頃みたいにチューでもしようか」

「キ、キモい」


「さあ、おじいちゃんのために、尽くすんだよ。体を張って、な」


 動画の私は殺人鬼の形相で斧を振りかぶり、可愛い孫である陽菜の細い足首に振り下ろしていた。改めて見せられると背筋がぞっとする光景だ。


「ギャーっ」


 陽菜が叫ぶ。

 血が噴き出し、顔に返り血を浴びている私。

 陽菜は失禁して小便がスカートと床を濡らしている。


「や、やめて、もう、マジやめて」


 私は斧をよっこらしょと斧をまた振り上げ、振り下ろす。


「ぐえっ」

 

 陽菜はそう言って、がっくりと頭を垂れた。

 私は斧を置いて、陽菜の足についていた錠をはずし、血まみれの足首を手に持っていた。

 それを頬に当てて、すりすりしている。


「顔が血だらけですよ」

「うるせえ」

 

 私は陽菜の左足にも斧を振り下ろしていた。私は何度も何度も斧を振り下ろしている。狂ってる、そう思った。


 陽菜の足首が骨ごともげ、足首にはめられていた錠を私は外していた。


「陽菜、終わったぞ。爆弾止めて、鍵を取って来てくれ」

「おい、陽菜」

「気絶してますよ」

「なんだよ、せっかく動けるようにしたのに、これじゃ意味がないじゃないか」


「早く起こさないと、あと3時間20分ですよ。失血死したら、元も子もないないですよ」 

「わかってるよ!」


 そこで動画は終わり、こんなメッセージが出て来た。


『この動画を見た者は、両足を切り落とさない限り狂って死ぬ』

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