切と断
「いいよね、っていいって言うわけないだろ。ねえ、足だよ。両足だよ痛いよ、そんな斧で叩き切られたら、出血死しちゃうよ。そしたら2人とも助からないよ」
「だからって何もしなかったら4時間後に爆弾が爆発して2人とも死ぬんだよ。爆死だよ。おじいちゃんと死ぬなんてゼッタイイヤ。一緒にお風呂に入るくらいイヤ。だからこの斧を振り下ろさせて」
「簡単に言うけど、足がなくなっちゃうんだよ」
『孫がおねだりしてるんだから、ね、両足を切断させて。お、ね、が、い!」
「でもどうして私の足が切断されると2人とも助かるんだよ?」
お面男が話し始めた。
「まず足首を切断します。そうすると足枷がなくなって、自由に動けるようになります。あなたは足首がないので、這って行くしかないのですが。
それで爆弾についてる青い方の線を引き抜いて下さい。そしたら時限爆弾のタイマーは止まります。
そしてデジタル時計の上に鍵が2つ置いてあります。片方が手錠、もう片方が部屋の施錠を開ける鍵です。手錠はすべてその鍵で開きます。
それであなたはお孫さんの手錠をはずしてあげられます。そして足錠もはずします。最後にその鍵をお孫さんに渡して自分の手錠をはずしてもらう。これでミッションクリアです」
「陽菜、その斧でこの足錠を叩き切れ。そうすれば足を切らなくても動けるようになる」
「その錠は特別な物なので、斧では切れないでしょう。逆に刃こぼれでもしたら、もう足を切断する術がなくなって、2人とも死ぬしかありませんよ」
「いいからこの足錠を切断してくれ。陽菜お願いだ」
陽菜は少し考えていたが、
「やっぱり刃こぼれして足首が切断出来なくなったらもう死ぬだけだから。大嫌いなおじいちゃんと死ぬなんてイヤだから。早く両足を切断させて。痛くしないから」
「痛くしないからって痛いよ、どうやったって遺体よ」
「じゃあ一度素振りさせて」
陽菜がいきなり斧を振り下ろした。斧は私の足をかすめて空を切った。その恐ろしい風圧に、背筋がゾッとした。
「ちよっと、待った! 素振りいらないよね。絶対いらないよね」
「だっていきなりだと、大嫌いなおじいちゃんの足の肉にうまく斧が食い込まないかもしれないから。初めてだとうまくいかないの!」
「いちいち大嫌いなってつけなくていいから。それとすごく怖いこと言ってるよ、陽菜。それに初めてだとうまくいかないって、もしかして陽菜は処女じゃないのか?」
「だから、そういう無神経なことを聞くところが大っ嫌いなんだよ! もう10分経っちゃったよ。ぐたぐたぐたぐた、駄々こねて恥ずかしいと思わない? たかが足だよ。首を掻っ切るわけじゃないんだよ」
「陽菜は頭がおかしくなってるよ。首じゃなくて、足だからいいってもんじゃないんだよ。体の部位を切り落とされるんだよ。駄々だってこねるよ。いくらだってこねるよ!」
「ふふふ」お面男が笑った。
「何、笑ってるんだよ」
「いや、久々にお孫さんとコミュニケーション取れてうれしそうだなって」
「こんな所で取りたくないよ。なあ、金ならいくらでも出すから、助けてくれよ」
「大嫌いなおじいちゃん、引くこと言わないで。お金にモノ言わせるなんてサイテー」
「なら陽菜、その斧を私に貸しなさい。その陽菜の足錠を切ってあげるから。ねえ、陽菜」
「大嫌いなおじいちゃん、なんか怖いよ。もしかして大嫌いなおじいちゃん、その斧を手にしたら私の足を叩き切ろうと思ってない?」
そうだよ。陽菜の足を斧で切り落とせば、這ってあの爆弾の青い線を引き抜いて、鍵を取ってくればいいのだ。
「そんなこと思ってないよ。さあいい子だから、その斧を貸しなさい」
「嫌あっ!」
陽菜が振り下ろした斧は右の膝下に当たり、激痛が脳を突き抜けた。斧は足の肉に食い込み、骨で止まった。血が噴き出すように流れ、みるみるうちに床が血みどろになった。
陽菜は斧を足から引き抜いた。また激痛が走った。
「一気にいかないんだ。骨が折れるまで斧で叩かないと」
陽菜がまた振り上げた斧を、私は手錠で受け止めてねじり上げた。
「痛いっ!」陽菜はそう言うと、斧を落とした。
私はその斧を拾い上げた。
そして「くくく」と笑って、おびえた顔をした陽菜を獲物のように見ていた。
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