罪と罰

「ちよっ、ちょっと待って。なんで私の両足を切断するのが助かる方法なんだよ」

 

 またお面の男は加工された声で笑い、

「安っぽいデジタル時計があなたの背後の床の上にあります。あれは4時間後にセットされた時限爆弾です」

 

 私は背後を振り返った。5メートルほど先に確かに安っぽいデジタル時計と、それに繋がれたコードと爆弾らしき物が見えた。こんな原始的な物で、警視だった私を騙そうというのか。


「次朗さん、疑ってますね。では、この地下室の奥を見て下さい。向こう側にもう一部屋あるんです。そこに仕掛けた爆弾を今、爆発させます」


 その途端、鼓膜が破れそうなほどの爆発音と爆風がして、地震のように地下室が揺れた。天井からチリが降り、煙がこの部屋に入り込んだ。


「今の爆弾よりも10倍ほどの規模の爆弾です。爆発したら、2人とも爆死です。四肢が飛び散って、首から上が破裂して、バラバラの肉片になって死ぬんです。2人ともです」


「なんでこんなことをされなければいけないのよ。おじいちゃんは確かに不倫をしたクズでカスだけど、それは爆死させられるほど悪いことなん?」


「それとは違います。次朗さんは昔、ある女の人に歯の生えたひな人形が写った写真とメッセージを送りました。『この写真を見た物は狂い死ぬか、身代わりを殺せば生き延びることが出来る』と書いて。


その女性は夫婦の問題でかなり精神的に追い詰められていました。危うい状態だったのです。その女性に、自分のことを好きにならなかったからという、クズな理由で送りつけたんです。


その女性がどうなったと思います? 自分が狂い死ぬよりも、身代わりを殺すことを選んだんです。それくらいおかしくなっていたんです。


そして私の娘がその生贄に選ばれました。誘拐され、殺された上に、私の所に娘の眼球と乳歯を送りつけて来ました。


私の娘は殺された上に、眼球をえぐり出され、ペンチか何かで乳歯を引き抜かれたんです。


その犯人は刑務所に無期懲役で40年間そ収監され、仮釈放処分で出所しました。彼女を狂わせた男は野放しだというのに。その上、その男は新たなゲームを始めたのです。


歯の生えたひな人形の動画を撮り、それを闇サイトで買った個人情報付きのメアドで一斉送信して、人が狂って自殺するか、殺人を犯すか、それを地方の新聞を取り寄せて名前をチェックしながら楽しんでいたんですよ。警視庁の人間が」


「おじいちゃん、それ本当なの?」

「本当なわけないだろう。みんな作り話だよ」


「そのパソコンに一斉メールを送った証拠が残っていたのに、シラを切ると?」

「あれが開けたのか?」


「今、闇バイトって、専門知識のある人間が多いんですよ。分野別に揃っていて。昨日、あなたを襲ったのも闇バイトの人たちですよ。


鍵職人はあなたの部屋のドアを開け、PC専門の人間があなたのパスワードを読み解き、薬学に詳しい者が帰宅したあなたに薬品を嗅がせて眠らせて、力自慢の者があなたを担いでワゴン車に乗せた。とても手際良く」


「そんな反社会的な奴らの手を借りて恥ずかしいと思わないのか?」

「どの口がそれを言うのですか。あなたほど反社会的な人間がいますか? 殺人教唆をする警視なんて、普通いませんよ」


「おじいちゃん、そんなことしてたの? 私のパパはおじいちゃんを嫌っていても、今もおじいちゃんの言った言葉を座右の銘にしてるんだよ。


罪を犯したものは必ず同等の罰を受けなければならない。だからおじいちゃんも同等の罰を受けなければならないよ。罪と罰なんだよ。だから」


「だから?」

「両足を斧で切断していいよね?」

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