SAWと爽

 私は意識が戻ると、袋のような物を被って座らせられていた。腕に手錠の感覚がある。それは足にもある。両足を動かそうとしても動かない。手錠をされた上に鎖か何かで繋がれて動けなくされている。


 私のすぐそばに誰かの気配がする。何かの金属が擦れてる音がする。同じように手錠でもされてるのか? 


 声はしないが、耳を澄ますと息づかいが聞こえる。手錠を取ろうともがいているのか?


 何が起きているんだ?


 私は不意に被らされていた袋を取られた。

 

 私の目の前には手錠をジャラジャラと鳴らし、はずそうともがいている、学校の制服を着た女子高生らしき少女がいた。


 猿ぐつわをされて、息づかいが荒い。黒髪が肩の辺りまである、目元のはっきりとした美しい娘だった。でもその目元はどこかで見た記憶がある。

 

 恐ろしいのは、彼女の手錠がはめられた両手には、斧が握らされていることだ。


 ここはどこかの地下室だろうか。空気がひんやりと感じる。窓もないし、外からの物音もしない。


 私たちの前にはパソコンが置かれていた。見覚えがあると思ったら、私のパソコンだった。


 私の被っていた袋を取ったのと同じ男が、屋台で売ってるようなお面をしていた。そのお面を見て、背筋が寒くなった。そのお面は歯の生えたひな人形だった。


 わかっているのか、私のやってきたことを。


 お面の男は少女の猿ぐつわをはずし、少女の背後にあった重そうな扉を開けて出て行くと、施錠をする音がガチャガチャと鳴った。私たちは閉じ込められたのだ。


 猿ぐつわをはずされた少女は荒く呼吸を2、3度した後、「何によ、これ。私これからデートだったのに」誰に言うでもなく、そう言った。


 するとパソコンの画面にいきなり映像が映った。


 さっきと同じ歯の生えたひな人形のお面をかぶった男がソファーに座って、こちらを見ている。


 あっ、と思った。あれは私の部屋のソファーだ。男の向こう側にある本棚の本でわかった。なんだこの男は。私の部屋で何をしようとしているのだ?


「私のゲームへようこそ。人が人殺しになるスイッチを押すゲームに」


 お面の男が、ボイスチェンジャーで加工された声で言った。なんだ、なんでこの男は私の密かな快楽のことを知っているのだ?


 天井の四隅にカメラが一台ずつ付いていた。

 こちらを監視している。


「さて、等々力次朗さん、等々力陽菜さん。お二人は祖父とお孫さんの関係ですね」


 えっ、とお互いが同じような表情をした。目の前にいるのは等々力陽菜、私の孫だった。


 孫に会いたいとずっと思っていた。それが年老いた私にとっての最後の希望だった。それがこんな最悪な形で叶えられるなんて。


「えっ、お、おじいちゃんなの?」

「あ、うん、陽菜、久しぶりだね」

「陽菜なんて気安く呼ばないで。あなたがおばあちゃんにしたこと忘れてないよね」


 不倫したことを言っているのか。私は微かに願っていた。孫と会えないのは、息子と嫁が邪魔をしてるのだと。でも陽菜は私を嫌悪していた。陽菜は会いたくなかったのだ、私と。


「ごめんなさい。親族を争わせて。でも仕方ないですよ。次朗さんは、それだけの悪いことをしてきたんだから」


 そう言った後、パソコンの中のお面をかぶった男は、「陽菜さんが生き残るには、その手にした斧を振り下ろして、おじいちゃんの両足を叩き切るしかないのです。陽菜さんSAWって映画は観ましたか?」


「そう? なにそれ、アイスの爽しか知らない」

「爽ですか。あの映画の影響でこの状況を作ったのですが。まあいいです。陽菜さん、そのまま斧をお爺さんの足首に振り下ろして、足首を叩き切って下さい」 


 男はそう言って、加工された声で笑った。




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