いらない僕⑥




行く当てもなく飛び出してしまったため、要は途方に暮れていた。 流石に見覚えのない場所へ来ていたりといったことはないが、自宅からは随分と離れてしまっている。


―――・・・何も考えずに家を飛び出しちゃったけどこれからどうしよう・・・。

―――もうお母さんに合わせる顔なんてない。

―――かといってこれから俺が行く先も・・・。


ポケットに手を当てる。


―――何も入っていない・・・。

―――財布は元から持っていなかったけどスマホも置いてきちゃったのか。

―――お母さんから連絡が来ない分ストレスは減るけど水島さんに連絡が取れないのは嫌だな・・・。

―――流石にこのまま終わるのは嫌だから気持ちが落ち着いてからでも謝りたかった。

―――水島さんの気分を害してしまった以上関係の修復までは望まないけど、俺自身が悪いことをしたんだから謝りたかった・・・。


かといってスマートフォンを取りに家へ帰りたくはない。 水島の住所は知っているが、実際行ってチャイムを鳴らしても水島が家から出てこない可能性があるため穏便に済ませたかった。


―――その前に今どうするのかを考えないと・・・。

―――でも友達に連絡をしたくてもスマホがないんだよなぁ・・・。


突然押しかけるのも迷惑だと思い悩んでいると丁度友人が向かい側からやってきた。


「お、要! 今日は授業だったのか?」


タイミングがいいと思い要からも駆け寄る。


「お、そうなんだよ! 奇遇だね、街中で会うなんて」

「大学へ行っていたとしても手ぶらだなんて珍しいけどな」

「はは、それは・・・」

「俺はこれから気になる女の子とデートなんだー。 そうだ! この前奢ってくれた飲み物代、今返すよ」

「え、今? いや、奢ったものだからいらないよ」

「ただ奢られるって何か気持ち悪いじゃん? ほら、利子付けて500円!」

「財布がないし今渡されても・・・。 それに500円は多過ぎ」

「忘れる前に受け取ってくれ! じゃあなー」


無理矢理500円玉を握らされ上機嫌に離れていく。 この後の予定から気が大きくなっていたのかもしれない。 貸した金額からして倍になって返された500円玉を見つめていると肝心なことを思い出した。


「そうだ、今日泊まる場所!! ちょっと待っ・・・」


友人を引き止めようとするも友人はスマートフォンで電話していて引き止める雰囲気ではなかった。 相手は彼女なのか非常に楽しそうだ。


―――これからデートなんだっけ・・・。

―――流石に今日泊まらせてとは言えないかぁ。


500円玉を握り締めたまま歩き出す。


―――今もらった500円でどうにかするしかない・・・。

―――何も持っていない俺からしたら有難いお金だけど何かするには少な過ぎる。

―――食べるものか寝る場所かどちらかを慎重に考えて選ばないと・・・。


要にとって選択は苦手なもの。 良に頼み財布とスマートフォンを取ってきてもらえればこんなに悩む必要もない。 だが部活を終えた良に合わせ夕方に帰ると父親とも遭遇する可能性があった。


―――だから頼むとしたら明日の朝家の前で待機して良に会ってから・・・。

―――つまり今夜はどうにかしてでも外で過ごさなくちゃいけない。

―――・・・って、俺はいつまで家に帰らないつもりなんだ!

―――一度家へ帰らなかったらそれこそもう親に合わせる顔がないっていうのに・・・。


葛藤していると近くから女子高生の声が聞こえてきた。



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