第29話  神堕ち愛宕の闇

火は鎮火され紙屋さんに外傷なし。制服の乱れもない。誰も紙屋さんが燃えたことを知らない。しかし今の紙屋さんは抜け殻だ。

実験室に教頭先生、「2ーCの生徒は教室へ戻るように。体調の悪いものは保健室へ」と指示する。今日、担任霧島先生は研修で休みだ。

先生がいたらこの事件は起きなかったかもしれない。紙屋さんのことを“供物”だと言った愛宕。非道な愛宕を許せない。

女子達を蟻のように自分に群がらせる。自分のエネルギーとなる人間を炎で燃やし糧にする。何が供物か。そんな神様なんかいない。人間にもいない。愛宕は...

賀茂君が静かに顔を近づけてきた。

「トダ君、何か苛立ちですか。そう言えばさっきの炎から救ったお礼まだ聞いていませんでした。トダ君。」

そうだった、紙屋さんを助けよと僕も炎にのみこまれそうになった時、式神が助けてくれた。

「賀茂君、ありがとう。」

「1枚目をこんなにすぐ使うとは。」

教頭の声「このまま午前授業は自習です。みんな、静かにするように。」

賀茂君は続けた。「ちょうどいい。自習だ。トダ君ポケットの式神を1枚とって君の息をかけ愛宕目指して飛ばして。」

僕は息をかけてた。式神はスーッと静かに愛宕の後頭部に張り付いた。

「トダ君、あの式神は神堕ち愛宕の闇を投影する。みててご覧。」

後頭部に張りついた式神から愛宕の感情が伝わってくる。

『さっきの人間の供物で少し、力が満ちてきたようだ。しかし蟻ならもっと多くの供物をあつめることができる。』

投影が深くなる。

小さい頃の愛宕だ。座り込んで蟻を見ている。蟻の行列が死んだセミを運んでいる。巣に到着。セミの姿はない。運びながら蟻たちは死んだセミを食い尽くしていた。蟻たちのカラダはエネルギーで光っていた。その光景を小さい愛宕が”面白い”と言った。獲物を集める。獲物は供物だ。供物は僕の糧となる。

僕は天上界一番の強いエネルギーを手にしたい。そうだ”蟻の真似をしよう。”僕も供物を人間を食べて糧にしよう。そしてあの方のように...』

「バカな。人間を食べる。」

僕は吐き気がした。投影から目を反らす。なんだ愛宕の闇は。蟻?供物?人間を食べる?気持ちが悪い。

賀茂君が「かなり衝撃を受けてますねトダ君。君は世界を知らなさすぎる。

甘い。無知。愛宕は君と同じ神様だ。神様だった。

小さい頃に闇落ちしていた。ただ、それだけだのことさ。」

僕は?愛宕は?今愛宕はただの蟻だ。





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