第4話 表札 天野

みんなと別れて駅を越えてまっすぐ。商店街を抜けると家がたくさん。それぞれの家から声が聞こえる。人の住んでいる生活の匂いがする。

小さい子供もよく見かける。「いい街だね。」

「でしょう。」

青い屋根の平家が見えた。小さな庭は緑の木や植物達がたくさん。元気に育っている。

白いアジサイのような花達。大手毬?目がパチパチ?えっ?目が合った気が?

「ここよ。」

僕はチラリ表札に目をやる。“天野”

サラが元気よく「ただいまー!」

木の温もりと玄関先の緑の匂いが家の中まで届いている。「おかえり。」奥の部屋から優しいおばあさんの声だ。

サラが「トダ、早く。遠慮しなくていいから。早く。早く。」サラはドンドン足音をたてながら

おばあさんの所へ。「おばあちゃん、お願いがあるの。トダ、住むところがなくって、しかも記憶喪失中。記憶が戻るまで、お願いここに置いてあげて。おばあちゃん、お願い。」

「そうだろうと思ってご飯多めに作っていたよ。」

「えー!!」

おばあさんは笑いながら「サラ、今のは冗談だよ。商店街で特売だったから、つい多めに作っただけだよ。」

「そうなんだ。びっくりしたよ。時々、おばあちゃんのすること当たる!からほんとびっくり。」

「2人共、お腹がすいたでしょう。手を洗って来なさい。」

「おばあちゃん、じゃ、トダ、いいの?ここ住んでも。」

「そうね。記憶喪失で行く所がないのは、かわいそうよね。それに、もうすでに一度会っているしね。」最後の言葉が小さくなる。

サラが「えっ?おばあちゃん、何?いいの?いいのよね。」

「もちろんいいわよ。トダ君は玄関横の部屋を使いなさい。」

サラが「おばあちゃん、和室のあの部屋?」

「そうだよ。狭いが机もあるしね。高校生は勉強しないとね。君には、いい部屋よ。それに玄関横だと泥棒よけにもなるしね。ふふふ。」おばあさんが笑った。その声!僕は、あの時のベンチの声を思い出した。おばあさんは、サラに気づかれないようウインクした。

サラが「トダ、玄関先じゃ、まるで番犬のようね。でも番犬にしては、少し頼りないけどね。」あえて否定はしないが。ここに置いてもらえてるのは、ありがたい。彼女達の役に立つように努めよう。

「おばあさん、サラお世話になります。」

天野家での僕の生活が始まる。


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