71話 入団希望者

「エドワードさん! ご所望の警備団、見つかりましたよ!」

「マジかよお前、有能すぎるだろ!」


 喜色にあふれたベッファの報告に、エドワードが叫び返した。


「カロージェロさんの判定はグレーなのですが、元傭兵集団で現在情報屋の手伝いもやっていたため、そこを加味していただいて……とは話してあります! 条件付きですが、悪くはないと思います!」


 ハキハキと答えるベッファにエドワードは「条件付き……?」と微かに眉根を寄せたが、気を取り直したように言った。

「ま、いいか。シルヴィア様の魔術で判定してもらえば」

「その通りです!」

 ベッファも思い切りうなずいた。


 その集団は、この前リノベーションした広場にいた。

 そして、感心したように散らばってあちこちを見ていた。

 フリーダム過ぎるだろ、とは思ったが、平民の傭兵集団なんてこんなもんかもしれないと思い、咎めずにいた。

 咎めるときは、無事シルヴィア様の魔術を受け入れ、俺の指揮下に入った時だな。

 そう思いながらニッコリと笑顔を作った。


「代表はいるのか?」

「はい、私です」


 一人が手をあげた。

 見たところ、三十代後半から四十代の、一見優しげな男だった。

 だが、かなり鍛えているのはエドワードにはわかった。

 男も、エドワードを見て強者なのが一瞬にしてわかったようだ。

 軽く目をすがめ、次には笑顔になった。


「あなたがこちらの守りの要の方ですか」

「城主シルヴィア様の護衛騎士、エドワードだ。城主代理も兼ねている。君たちは、城の防衛――シルヴィア様の私設騎士団に入団を希望しているということでいいか?」


 エドワードがそう尋ねると、全員がエドワードを見た。

 そして集まり、膝をつく。

 代表の男が回答する。


「私は後ろに並ぶ者たちの代表、ノマーニと申します。もしも希望が叶うのなら、ぜひとも騎士団に入団したいと考えております」

「その希望とは?」

「それは、城主に直接お願いしたいと」


 エドワードはしばし考える。

 ふと気付くと、カロージェロがいつの間にかエドワードの横にいた。


「……全員に、過去誰かを騙し、欺いた過去があります。殺人は……まぁ、傭兵ですからあるのは当たり前ですが、偽証の罪はかなり意識しているようですよ」

 エドワードに耳打ちしてきたので、エドワードはカロージェロに頼んだ。

「……シルヴィア様に結界魔術を張り、その上で連れてきてくれ。いざとなったら、全員斬る」

 カロージェロはうなずくと、踵を返した。


 しばらくすると、乗馬服を着て短剣を装備した臨戦態勢のジーナと、カロージェロにエスコートされたシルヴィアが現れた。

 なぜか、フンスフンスと鼻息が荒い。


「…………?」

 エドワードが内心で首をかしげると、ジーナがスススッと寄ってきて教えた。

「……大勢の騎士団員希望者の前なので、城主として威厳のあるように見せている、つもりです」

 エドワードは噴き出しそうになるのをこらえた。


 ベッファも聴こえていたらしく、

「うちの主が尊すぎる……!」

 と、もだえている。

 そして張り切って言った。


「こちらが! わが主、この城塞の城主である、シルヴィア・ヒューズ様でいらっしゃいます! 貴方がたが命を賭してお守りする方です!」

「ベッファ、落ち着け。そこまで期待していない」


 エドワードがたしなめた。

 ベッファと、なぜかカロージェロも不満そうな顔をしたのでエドワードは咳払いする。

 そして、控えているノマーニたちに向かって言った。


「シルヴィア様に直接お願いしたいとのことでしたね。では、告げてください。――ただし、今回限りです。シルヴィア様に仕えることになるにしろならないにしろ、今後は私、カロージェロ、ベッファ、この三人のいずれかを通すようにしてください」


 エドワードは少しだけ声を低くし、威圧するように続きを言った。

「シルヴィア様は公爵家の令嬢で城主。本来は、肩書きもない領民でもない者がシルヴィア様に直接願い出るなど、言語道断だと自覚するように」


 ノマーニたちは、頭を下げた。

 エドワードはシルヴィアに膝をつき、告げた。

「……この者たちは騎士団への入団希望者なのですが、何やら希望があるらしく、それをシルヴィア様に直接願い出たいようです」

「ん!」

 張り切って返事をするシルヴィア。


 エドワードは立ち上がると、ノマーニたちに言った。

「シルヴィア様の許可が出た。願いをシルヴィア様に伝えろ」

 ノマーニは、一瞬エドワードを見た。

 エドワードは、一見優しげにノマーニを見ている。

 だが、少しでも不審な動きをすれば抜剣し斬り伏せる、と、感じた。いっさい隙がない。


 ノマーニは、シルヴィアに視線を移すと、語り出した。

「……では、少し長くなりますが、我ら一族の話を聞いてください」

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