69話 図書室
エドワードがシルヴィアを抱えたまま図書室に向かうと、すでにカロージェロとベッファが来ていた。
カロージェロはシルヴィアを抱えているエドワードを見て片眉をピクリとあげたが、シルヴィアがご機嫌なのを見て、何もなかったようにベッファを促した。
「それで、どうしましたか?」
ベッファは案内するように手を奥に向けた。
「実際、見てもらえるとわかるかと。こちらに来ていただけますか?」
ベッファは先導して奥の本棚に向かった。
「ここに収められている本を見て、おかしさに気がついたんです」
タイトルのない本が、びっしりと詰まっている。
ベッファが一冊抜いて、カロージェロに手渡した。
カロージェロは今度こそ片眉をあげる。
「これは……本ではないですね」
それは、紙で作った本に見せかけた作り物だった。
ベッファはカロージェロにうなずいてみせると、その本棚の右下にある本を手前に倒し、次に右上にある本、左下の本、左上の本、中央下の本、中央上の本を次々に傾けた。
そして、右端の上から四段目の本を押しこみ、そのままぐっと力を入れる。
「「…………!」」
カロージェロとエドワードが声もなく驚く。
「……隠し部屋があったんです」
ベッファが重い口調で言った。
固まっているカロージェロとエドワードだったが、シルヴィアはキョトンとしていた。
三人を見比べて、首をかしげる。
「どうしたですか?」
シルヴィアが尋ねると、三人がハッとしてシルヴィアを見た。
「え……と、シルヴィア様。もしかして、ご存じでしたか?」
ベッファが恐る恐る尋ねると、シルヴィアはなんでもないことのようにうなずいた。
「はい。城塞は、わたしのものですし」
三人が絶句する。
が、エドワードはいち早く取り戻した。
「……そうでしたね。で、この隠し部屋って何があるかはご存じですか?」
「…………えーと、おこもりできる感じの、机と、椅子と、本と、書く道具があるです」
エドワードが思案する。
「……ま、城塞だから隠し部屋はそりゃあるよな」
うなずくとエドワードは、シルヴィアにさらに尋ねる。
「こういった、普通のドアじゃない部屋って、あとどのくらいあります?」
「え。いっぱいあるですけど」
シルヴィアが即答し、エドワードとカロージェロは天を仰いだ。
「……まぁ、城塞ですし、シルヴィア様が把握しておられるのならいいのではないですか? 当主のみ知る隠し部屋の存在は、普通ですから」
カロージェロがそう言うと、「確かに」と、ベッファがうなずく。
「ただ、見つかったからには中を点検しないとだろ。使用人にもわかる隠し部屋は、隠し部屋じゃない」
エドワードが言うと、ベッファが一礼した。
「ちょうど、城主とあの肖像画に描かれた人物との関係を調査していましたし、可能ならあの部屋の調査も承りたいのですが、いかがでしょうか?」
エドワードがシルヴィアを見ると、シルヴィアはうなずいた。
「おねがいします」
「では、許可を得ましたので調査をいたします」
「あまり熱を入れるなよ」
と、エドワードは釘を刺しておいた。
部屋を出るとき、エドワードはベッファに声をかけた。
「あぁそうだ。あれこれ頼んで申し訳ないんだが……心当たりがあればでいい。傭兵の集団で手ごろなのいないか?」
ベッファは面食らった。
エドワードは語る。
目下の悩みは戦力の拡大だ。
城塞はシルヴィアの魔術で難攻不落だが、人的戦闘力はエドワードのみ。
ジーナはシルヴィアの護衛として張りつくよう、絶対に前回のようなことはないようにと伝えているため数に入れていないし、他の使用人は一般人レベルだ。
カロージェロは結界が張れるが、それを使うくらいなら治療に回ってほしいため、やはり数に入れない。
「お前が戦えるとしても、それでも二人だろ? 少なすぎる。城塞の警備の人数じゃない」
「私は確かに戦えますけど、暗殺向きですから騎士としてはエドワードさんしかいませんね」
ベッファもエドワードの言いたいことが分かり、二人で頭を悩ませた。
「この都市の防衛や治安維持のためにも、小隊くらいは揃えておきたいですね」
「……当てがないんだよなぁ」
エドワードがぼやくと、ベッファが尋ねた。
「公爵家からは融通してもらえないんですか?」
「出来れば死んだことにしてほしいくらいだ。いつかは噂が届くだろうが、それまでに可能な限り力をつけておきたい」
「あ、そういう感じなんですね。承知しました」
ベッファはすぐに察して一礼した。
「だからお前の方に伝手はないかなって尋ねたんだよ。俺の伝手は……なくはないけど、いざというときの傭兵だな。シルヴィア様への忠誠心はカケラもないし期待するのも無理なんで、余程のことがない限りは使いたくない。理想としては、冤罪で陥れられた集団が見つかるとうれしい。ただし復讐心が滾っていない連中。こういう連中ならうまいこと丸め込めばシルヴィア様に忠誠を誓うから」
端から聞いたらとんでもない話なのだが、ベッファはなるほどというように深く頷いた。
「ちょっと捜してみますね」
「頼む。無理はしなくていいから」
「分かりました」
エドワードは自分で無茶を言っている自覚はあったし無理だろうと思っていた。
後日、ベッファが輝く笑顔で話しかけてくるまでは……。
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