68話 ベッファへ依頼する
城内の探検およびリノベーションは、なかなか進まなかった。
まず、暇が無い。
人手不足は隣国の上級使用人によって改善されたが、それはこの城塞の特殊さでどうにかなっているのであって、規模としては全然足らない。
特に、エドワードとカロージェロは替えがきかない立場であるため、なかなか手が空かないのだ。
シルヴィアとしてはその時についている侍女とともに手つかずの場所へ赴き改築するのでもかまわないのだが……エドワードは把握したがるし、カロージェロとベッファは自分が魔術を使うところを見たがるし、ジーナは戦闘訓練を受けていない侍女だけで知らない場所に行っちゃいけないと言うしで、そうなると全員が集まって探検するしかないのだ。
「うーん、進まない」
エドワードがぼやくと、シルヴィアがエドワードを見た。
「じゃあ、私がさきに」
「よし、カロージェロとベッファを外してやりますか」
エドワードがシルヴィアの言葉をさえぎって言うと、ジーナが呆れた。
「むしろ忙しいのはエドワードだと思いますけど。あとで確認すればいいじゃないですか。最初の頃はそうしていたでしょう?」
初期、まだ三人だった頃はジーナが城を切り盛りしていた。
城塞の内部の確認もジーナが主導で行っていたし、どうしても修繕が必要だと判断した箇所についてはシルヴィアにお願いして魔術を使ってもらい、あとでエドワードに報告していた。
カロージェロが家令を行うようになってから、カロージェロを疑っていたエドワードがジーナに言って改修をいったん中断したのだ。
以来、改修するときは主要メンバー全員でするのが常になったが、カロージェロへの疑いが晴れた今、別に全員で回る必要などないのだ。なんならジーナとシルヴィアの二人で回って修繕していったほうが時間もかからず早いし、あとで修繕箇所をまとめてチェックしてもらった方が段取りもいい。
……のだが、エドワードは黙ってしまった。
全てを手がけるのは無理だとはわかっているが、エドワードは城塞に関してだけは人から聞くよりも実際に見ながら確認したかった。
それは、前回の賊の件で思ったのだ。
あの時はシルヴィアの魔術を当てにしていたが、そもそもここは城塞。敵に突入された際、防衛のしかけが作動するはずなのだ。
二回目の時はシルヴィアにそういった防衛を城塞に組み込んでもらったが、あれは裏門だけ。
城塞のあちこちをよく見れば、廊下や部屋にしかけがあるのがわかったし、ならばシルヴィアに言って改装するときに組み込んでもらった方がいいと考えた。
シルヴィア自身がそういった防衛機能を改修時に組み込んでくれればいいのだが、戦争どころかろくに戦ったことのない幼女にそれを求めるのは無理というもの。ならば、防衛について一番詳しいエドワードが直接指示しないとダメだと悟ったのだった。
「……人づてに聞いて、あとで確認、ってのは嫌なんだよ。それに、直した後で要望を言ってまた直してもらうのは手間だし時間がかかるだろう?」
と、困った顔でエドワードがジーナに告げる。
ジーナとシルヴィアは顔を見合わせた。
「わかりました。エドワードがいるときやります」
「……ですね」
二人は折れて、やはり第一優先の部分から先に手がけよう、となった。
侯爵令嬢受け入れ準備に追われているとき、ベッファが深刻な顔でエドワードに声をかけた。
「城塞の防衛はエドワードさんかと思いまして、最初に声をかけさせていただきました。ただし、家令であるカロージェロさんと、何よりシルヴィア様に確認したく思います」
エドワードは驚き、一呼吸置いてからベッファに返事をした。
「……じゃあ、シルヴィア様を呼んでくる。執務室でいいか?」
「いえ、図書室でお願いします」
ベッファが即返した。
「……わかった」
エドワードは首をかしげながらもうなずいてシルヴィアを呼びにいった。
「シルヴィア様、ベッファが確認したいことがあるとかで、図書室に来ていただきたいということなのですが」
エドワードが豚に乗って乗馬の訓練をしていたシルヴィアに声をかけると、シルヴィアは驚くこともなくうなずき、豚から降りた。
「ん! わかったです」
そう言った後バンザイしてきたので、これは抱っこしろということだなとエドワードは察して抱き上げ、片手で抱える。
「んふふ〜」
シルヴィアは鼻歌を歌い出した。
ずっと忙しくて抱っこしてもらえなかったのだ。
カロージェロやベッファがいるときは威厳ある振る舞いをしているつもり、だが、エドワードだけなら甘えたい。
エドワードも、シルヴィアが甘えたかったのがわかり、申し訳なかったな、という気持ちになった。
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