66話 ジーナがいなくなった後 2 前
ジーナがいなくなり半月ほど経つと、まず工房が大混乱に陥った。
親方が従業員に今やっていることと納期を聞き出したが、知識が足りず間に合わせるのは難しい。
恥を忍んで取引先に赴き、謝罪して納期を延ばしてもらい、不安そうな顔をする従業員たちに指示を飛ばして、ようやく納品した。
ジーナが担当していた重要な部分は親方がやることになったのだが、久しぶり過ぎて腕がなまり、出来がよくなかった。
取引先の服飾店は納品された服を見て突き返そうとしたが、親方の『一番のお針子が急病で倒れたため、慌てて代理でまかなった』という弁解を聞き、顔をしかめつつもしかたがないとうなずいた。
ただ、
「今まで無理を呑んでいただいたことが何度もありますから今回はこれで納めますが、次回はないようにしてください」
と、強く釘を刺し、親方も、
「次回までにはジーナが見つかる……いや、なんでもねーですよ、復帰してると思うんで安心してください!」
と力強く返した。
この頃はまだジーナが隣町に潜んでいると思い込み、すぐ見つかると高をくくっていた頃だった。
……だが、いつまで経っても見つからない。
隣町へ探しに行ったはずのカティオは、最初こそ熱を入れて探したが見つからないため早々に飽き、隣町で遊んでいた。
金が尽きたので家に戻ってきたら、家は荒み、工房には誰もいない状態だった。
「……な……にが、起こった?」
カティオが呆然としていると、奥から転がるようにして親方が現れた。
「ジーナは戻ったか!?」
血相を変えた父親に両腕をつかまれ迫られたカティオは、思わず後退りながら首を横に振る。
「……はァ!? お前、今まで何をやってたんだ!?」
殴りかかられそうな勢いで怒鳴られ、まさか遊んでましたとは言えず、
「……そりゃ、捜してたに決まってるだろ?」
と、ボソボソ答える。
嘘を見抜いた親方だが、突き飛ばすようにカティオの腕を放し、ヨロヨロと座り込んだ。
「……いったい、何があったんだよ?」
カティオもこの状況が不安になり、父親に問いただした。
「……見ればわかるだろ。今まで工房はジーナに任せっきりだった。仕事を取ってきても段取りがわからず進められねぇ。仕方なくジーナが戻るまでの間は俺が仕切ることにしたが……。ジーナのやり方と違うってんで、取引先がクレーム入れやがった。ジーナが戻るまで取り引きは無し、別のところに頼むってよ。……おまけに、ジーナがいなくなったのが知れ渡ったのか、取り引き自体断られるようになった。仕事がないんで、従業員に暇を出したら戻ってこねぇよ。全員、別のところに移りやがった」
従業員に関してはそれだけではない。
親方は最初、ジーナの後釜として従業員の一人を指名した。そしてやらせようとした。
だが、早々に音を上げて工房を辞めた。
「ふん、根性のねぇ野郎だ。だが、別に他にも候補はいる」
そううそぶいて次々と指名したが、次々と辞めていったのだった。
そもそもが、ジーナほどの腕前があるなら独立して工房を持っているか個別に依頼をとっている。
安月給のお針子たちは全員まだまだの腕前で、現場で腕を磨くべく工房で働いているのだ。
長らく現場から離れていた親方はそのことをすっかり忘れていた。
そして、気付いたときにはもう遅かった。
カティオは、ジーナがいなくなったくらいでどうして、という思いで親方の話を聞いていた。
たった一人、事故で身寄りを失いここに身を寄せていた少女がいなくなっただけだ。
それで、どうして回らなくなるんだ?
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