65話 城内リノベーション3
さらに歩き回り、あちこちに隠されていた、いかにも城塞らしい、防衛戦のための仕掛けを復元したりしていたら、あっという間に時間が経ってしまった。
そろそろ切り上げるか、という雰囲気になってきたとき、ジーナが挙手して意見を述べる。
「私としては、城主の住まう階をすべて改装したいです。使わないからといって後回しにしていますが、シルヴィア様の住む階ですよ? 主の部屋が後回しはよくありません!」
「「それもそうですね」」
カロージェロとベッファが即座に同意した。
エドワードはしばし考えたが、
「確かにそうだな」
と、同意し、まずはドローイングルームであろう部屋を改装することにした。
扉を開けると、入るのもためらわれるほどに荒れていた。
全員が口元を手で覆い、豚はクチュンとくしゃみをする。
シルヴィアは豚から降り、
「ちょっとさがっているです」
と手で制した。
「いきます!『あるじにふさわしい部屋に改装せよ――【
最後に盛大なくしゃみをしつつ、シルヴィアは詠唱した。
ガタガタと盛大に音を立て、埃が取り払われ、壁紙や床がめくるように入れ替わり、家具はキャンバスに色を塗られたかのように鮮やかに甦った。
壊れていた暖炉も自動的に組み立てられたかのように元に戻り、ボロボロだったカーテンはどこからか新品が現れて刷新された。
シルヴィアは腕を組み、得意そうに鼻を鳴らした。
見慣れているとはいえ、ここまで入れ替わるのは久しぶりだったために全員呆けながら見ていたが、我に返ったベッファがいち早く熱心に拍手した。
「さすがシルヴィア様! シルヴィア様に忠誠を誓ってから数回ほど目にしていましたが、いつも度肝を抜かれます! 特に今回は、あまりの素晴らしさに魂までもを抜かれたかと思いました……!」
「私にはたやすいことです」
シルヴィアは得意げにふんぞりがえる。
我に返った他の者も全員シルヴィアに賛辞を贈った。
「さすがです! 素敵なお部屋ですね!」
「本当にそうですね。シルヴィア様の魔術はいつ見ても驚かされます」
「……まったくもってその通りです。シルヴィア様、さすがですね」
全員から『さすシル』と言われたシルヴィアはますます得意げになった。
「では、中にはいるです!」
先陣を切ってズカズカと歩き、暖炉の上に飾ってあるモノを見て首をかしげた。
シルヴィアの様子を見たエドワードたちがいぶかしむ。
「シルヴィア様、どうなさいました……ん?」
シルヴィアの視線の先には、絵が飾られている。
「どっから現れた?」
「隠してあったです。魔術を使ったら出てきちゃったです」
エドワードの問いに、シルヴィアが困ったように言う。
全員が描かれている絵を見た。
――そこには、家族の団欒が描かれていた。
シルヴィア、エドワード、ジーナが複雑な顔でその絵を見る。
全員、家族と微妙な別れ方をしてここに来たからだ。
今いるメンツではカロージェロのみが復縁しているが、カロージェロも愛人の子で養子に出されたという経緯がある。
幸せそうなその絵を見た後、シルヴィアは無表情に言った。
「これは、知らない人ですけど、きっとここの城塞にいた人です」
全員が驚いた。
「……つまり、シルヴィア様のご先祖?」
「…………うちにもごせんぞの絵があったけど、こんな絵しらないし、ここに描かれてる人たちもしらないです」
「「「誰の絵?」」」
全員が首をひねった。
ともあれ、今の城主はシルヴィアなので、絵は外すことになった。
一番上背のあるエドワードが外し、
「メイヤーに聞いてみようか。あと、他に知ってる奴がいたら話を聞こう」
と、独りごちると、ベッファが一礼した。
「ならば、私が承りましょう。聞き込みをしてまいります」
エドワードがうなずいて礼を言う。
「助かるよ。でも、優先順位は低いから、手が空いたときでいい」
「かしこまりました」
エドワードはシルヴィアを見ると独り言のように呟く。
「どうせならシルヴィア様の絵を飾りたいですね」
「「「激しく同意します!」」」
とたんに全員が口を揃えて言ったので、シルヴィアはびっくりして思わずたじろいだ。
「……絵は、またこんどです」
さすがのシルヴィアも、ちょっと怖いな、と思ってしまった。
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