64話 城内リノベーション2

 現在のところ兵舎は使用人部屋となっている。

 普通は地下にあるのだが、地下は封鎖されていた上に、それらしい部屋がなかったのだ。


「そういえば、教会の裏手に地下室への扉がありましたが……」


 カロージェロが思い出したように言うと、エドワードがニッコリと笑った。

 カロージェロがいぶかしむ。


「……なんです? ご存じなんですか?」

「ろうやです。エドワードがよくいきます」

 シルヴィアが振り向いてカロージェロに教えた。


「「「え」」」


 エドワードが顔を曇らせた。

「……シルヴィア様。語弊がありませんか?」

「こないだも、私をほっといてそこにとじこめた男とこもってました!」

「ちょ! 言い方!」

 シルヴィアがふてくされたように言ったら、全員が白い目でエドワードを見る。


「ちょっと待て! なんかおかしいだろ! あそこは重罪人を入れる牢屋なんだよ! 俺は尋問するから行ってるんだって!」


 町にももちろん犯罪者を捕まえておく牢屋はあるが、そもそもがほとんど犯罪者のいない町だったので非常に心許ない。

 重犯罪者については、城塞の牢屋に運び入れて、罪によってはそのまま処刑していた。


 カロージェロがハァ、とため息をついた。

「教会の裏手にある、ということは、懺悔ののち贖罪させ浄化するためではないかと……」

「んなワケねーだろ。最期に祈りを捧げるって程度に決まってんだろうが。ここは城塞だったんだぜ?」

 エドワードが即否定した。

 カロージェロも、確かにそうかもしれないと思い、重いため息を再度ついた。


 武器庫らしき部屋はいくつかあった。

 ただ、ほとんど空で、たまに壊れた弓や錆びた短剣が落ちていたりする。

 その中で唯一無事だった短剣を、今はジーナが使っている。エドワードは、シルヴィアがリノベーションしたときに見つかった剣を拝借していた。

 武器庫は現在、掃除をして荷物置き場にしている。戦争でも起きなければ使うことはないだろう。


「……って思ってたんだけどなぁ」


 唯一封印されていた武器庫を開けたら、かなりの武器が揃っていた。

「うわー、すごいですね」

 ジーナが武器庫に入ると感嘆の声をあげる。


「他の武器庫は一般兵で、こっちは騎士団向けなのかな。……ん? これ……ミスリル使ってないか? こっちは魔鋼かよ……! マジかよお宝だらけじゃねーか!」

 目利きの出来るエドワードが叫んだ。

 ベッファも出来るため、武器をしげしげと見てうなずいている。

「ヒューズ公爵家は高名な魔術師一族でしたよね。とはいえ、騎士団までも魔術師で固めるということもないか……。そのため、この武器庫を隠すようにしていたんですかね?」

 ベッファが武器庫を見渡しながら言った。


「そうかもな。歴代魔術師団長を輩出している公爵家としては、戦争のためとはいえ選りすぐりの武器をたくさん所持している――ってことですら外聞が悪くて隠していた、って感じか」

 エドワードも同意する。

 そして振り向いてジーナを見た。


「ジーナ。シルヴィア様が許可するなら、ここの武器を使わせてもらったらどうだ?」

「ふぇっ!?」


 我関せずとシルヴィアをかまっていたジーナが驚いて声をあげる。

「きょかします!」

 間髪を容れず、シルヴィアが言った。

「今のでもじゅうぶん使えますよ!」


 ジーナは、武器にまったく興味がない。布地なら瞬時に目利きが出来るが、武器は使えればどれも同じでしょ、と思っている。

 高級な武器をもらっても盗難の心配が増して困るだけだ。


 いらないと言い張るジーナをまぁまぁとなだめ、エドワードがあとで見繕うことになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る