63話 城内リノベーション1

 不安はあるが、話は決まったのでシルヴィアに再度お願いすることになった。

 シルヴィアは執務室を嫌がるが、いちいち寝室に押しかけるのもよくないので執務室に来てもらって計画を話す。


「シルヴィア様、こちらが計画になります。つきましては、まず侯爵令嬢が宿泊する部屋の改装をお願いします」

「ん!」

 シルヴィアははりきって返事をした。


「立ち入り禁止区域はこちらになります。侯爵令嬢と連れてきた使用人全員が対象となります。それと、侯爵令嬢が散策しそうな場所の改装も優先順位を高めでお願いします。正面の庭と、中庭ですね。あと、この際ですからもう少し改築しましょう。シルヴィア様頼みになってしまいますがお願いできますか?」

 と、エドワードが頼んだ。

「よゆーです」

 フンス、と気合いを入れるシルヴィア。

 頼られるのがうれしいので、気合いが入りまくっている。


 シルヴィアはそう言うが、〝城〟とはよく言ったもので、かなりの広さになる。

 エドワードは第三王子の近衛騎士だったため王城に詰めていたが、王城よりは小さいが……というほどの大きさだ。

 貴族の屋敷とは比べものにならない。ゆえに、使わないと判断した部屋や場所はいっさい手を付けていない。

 カロージェロが見回っていたときもさすがに全域は無理で、日によって行く場所を変えて対応していたのだ。


 エドワードは鼻息の荒いシルヴィアを見て苦笑し、

「とりあえず、私も護衛騎士としてこの城塞の全容を知りたいので、シルヴィア様、案内していただけますか?」

 と、提案した。


 翌日から城塞を把握するためエドワード、ジーナ、カロージェロ、ベッファを連れて、豚に乗ったシルヴィアが意気揚々と案内した。

「いくですよ!」

 前方をステッキでさすと、豚も意気揚々と歩き出す。

 お供を従えてお城を探検するのはワクワクするな、とシルヴィアは思った。


 豚に乗ったシルヴィアを初めて見たベッファは、

「……なんですかあのかわいい生き物は……。え、うちの主かわいすぎじゃね? あ、鼻血出そう」

 と、密かにパニックを起こしていた。


「ベッファは放置して先に進みましょう」

 カロージェロが冷然と促し、皆で歩き出す。


 封鎖していた扉がいくつかあるが、まずはエントランスに近いところから始めた。裏門へ進むにつれて装飾は減っていき、いかにも砦という趣になるからだ。侯爵令嬢ならば、言われなくてもそちらへは近寄らないだろう。逆に言えば、正門に近い方は侯爵令嬢が出歩く可能性があるので、できるかぎり修繕しておかなければならない。


 エントランスから一番近い、一つ目の封印された扉を開ける。

 そうしたら部屋ではなく、外に出た。


 見たところ、広場のようだ。雑草が生い茂っているが、他には何もない。

「うーん……。兵舎の近くということは馬場かな? 庭とは思えない感じだなぁ」

「広いですねー。家畜小屋や畑がある場所と同じくらいです」

 エドワードとジーナが感想を言い合う。


 カロージェロはシルヴィアに尋ねた。

「特に必要ないかもしれませんが……。シルヴィア様、どうなさいます?」

「直します!『城塞よ、元の姿を現せ――【改修リノベーション】』」

 シルヴィアが詠唱しながら杖をつくとと、一気に雑草が取り払われ、朽ちた建物が元の姿に戻った。


「馬場か兵士の訓練場ってトコだな」

「ですねー」

「厩舎もありますので馬場……あるいは、城塞ですから兵士の待機所だったかもしれません」

 エドワード、ジーナが感想を言い合った後、ベッファが考えを述べた。


「まぁ、見映えは良くなったでしょう。侯爵令嬢もここを見れば城塞だとわかるはずです」

 カロージェロがそう言うと皆がうなずいた。


「馬をもう少し飼うか? 今はシルヴィア様が連れてきた二頭だけだもんな」

 エドワードが提案すると、他三人が顔を見合わせ、シルヴィアを見た。


 シルヴィアの連れてきた馬は、たぶん馬じゃない。

 ベッファですら、シルヴィアと戯れているのを見てそう判断した。

 普通の馬を連れてきて大丈夫か? と考えたのだ。


「……保留にしましょう。家畜の管理人に相談してからですね。彼らがそれらも担当することになると思いますので」

 カロージェロがそう言うと、エドワードも「それはそうだな。任せる」とすぐ引いた。

 エドワードは騎士なので、こういった場所を遊ばせておくのはもったいないと考えただけだ。

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