42話 カロージェロ、帰国する

 数日後、隣国から先触れが到着した。エリゼオ男爵とオノフリオ侯爵が城塞にやってくるという。


 これはエドワードの策の一つで、両家に『十数年前、隣国から流されてきたと思われる美貌の少年が、現在は神官となり城塞に勤めている、どうも何かに脅えていて、城塞に隣国の暗殺者と思われる者たちからの襲撃があった』という告発文を送っていたのだ。仰天した両家はすぐ話し合い、司法官長に知られないように手を打ちつつ、カロージェロが本物か確かめに城塞に向かったのだった。


 エドワードは、最低限のマナーをシルヴィアに叩き込みつつ歓迎する準備を整える。

 カロージェロも、エドワードが仕切ることに片眉はあげつつももう反対はしなかった。よくよく観察すると、「苦労性ですね、この方は。なんでもかんでも引き受けてしまう性分タチです。それがバレたらさぞかし利用されまくるでしょうね」ということがわかったからだった。


 エリゼオ男爵とオノフリオ侯爵は、無事たどり着いた。

 二人を歓迎する体裁をなんとか取り繕ったエドワードはひと息つく。

 シルヴィアには、最初の挨拶だけしっかりやれ、あとはうなずいておけば自分が相手をするからと言ってある。


 幸いにして二人はシルヴィアの付け焼き刃もいいところの挨拶はまったく気にせず、カロージェロの行方ばかりを気にしていた。

 良いご両親に恵まれてけっこうなことだな、と内心吐き捨てつつもエドワードはにこやかに対応する。

 カロージェロと対面すると、三人はすぐに相手をわかった。

 カロージェロは、幼少の頃は母親の方の顔立ちが強く出ていたが、青年になった今では父親であるオノフリオ侯爵に似てきていた。親子であることは誰の目にもわかってしまうだろう。

 そして、エリゼオ男爵もカロージェロも、長年過ごしてきた相手を忘れていなかった。

「大きくなったな! 相変わらずの美貌だが、幼少期ほど危険はなさそうだ」

「父上は老けましたね」

 などとすぐに打ち解けて軽口を叩いている。

 そして、カロージェロは十歳のときに起きた事件を話し、侯爵と男爵はこちらではどういう話になっているかを語り、その後を話し合い、カロージェロは帰国することになった。

「わが侯爵家が責任を持って処罰し、ヒューズ公爵家にも謝罪を行う」

 と言ってくれたので、エドワードはへの謝罪は不要だが、現在復興中の城塞への援助と今後両家との交流をお願いしたいと交渉した。

 そして、カロージェロがやらかしたことによるエドワードとジーナへの個人的慰謝料も頼んだ。


 今回の件でエドワードは個人資産をかなり減らしてしまった。金をばらまいたようなものだ。見栄もあってシルヴィアに援助を頼むのは嫌だった。その使った金の補填を頼んだ。

 ジーナへもそうだ。

 城塞で暮らしていると個人資産が手に入りにくい。なんでも手に入るが金だけはなかなか入ってこなかった。

 給料計算もエドワードがやっているが、現在は入りが少ないため最優先である従業員の給料を払うとエドワードもジーナもほとんど給料が入ってこないのだ。

 実はカロージェロの給料すらも、「私は神官ですので、教会から出ます」という言葉に甘えてほとんど払っていないのだった。

 なので、切実にエドワードは慰謝料をもらいたい。

 さすがに質素倹約をモットーとしている神官から金をむしり取れないので、その後ろに控えている金持ちの親からむしり取ろうと考えたエドワードだった。


 話はまとまり、侯爵が関所付近で待たせていた私兵団に生き残りの暗殺者を引き渡した。

 家畜たちは言いつけをキチンと守り、逃亡を図ろうとした賊を蹴り殺したり爪で引き裂いたりしたため、生き残りはさらに半数近く減っていた。

 残ったのは賢明な判断を下した運の良い者たちだ。生き延びるため、今まで司法官長に使われていたことや今回の依頼の件も気持ち良く話すだろう。


 送迎のため、シルヴィアを筆頭にエドワードとジーナが並んでエリゼオ男爵とオノフリオ侯爵を見送る。

 馬車に乗り込む前、最後にカロージェロは振り返り、深く頭を下げた。

 そして、踵を返すとすぐに馬車に乗り込んだ。

 扉が閉まり、馬車は去っていく。後を護衛の私兵団が続いていった。

「……終わってみれば、呆気なかったな」

「……いろいろ大変でしたけどね」

 エドワードとジーナがそれぞれつぶやくように会話をすると、エドワードの裾をシルヴィアが引っぱった。

「抱っこしてください!」

 あれ以来なんだか甘ったれになってしまったな、でも、初期の無表情さが消えたのは良かったか、とエドワードは考えつつ抱き上げると、ジーナをうながして馬車が止めてある場所まで引き返していった。

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