34話 激戦、そして……
絶え間ない攻撃がやみ、カロージェロの魔力がギリギリもっている。
だが、カロージェロもあと数発しか結界は張れないだろう。
カロージェロはハラハラしつつ、どうしたらいいのかわからずにジーナを見守っていた。
なぜここに現れ、助けてくれたのか。
――いや、あれだけ騒いでいたのだ、ジーナはシルヴィアをエドワードに任せて様子を見に来たのだろう。そうしたらカロージェロが襲われていて、助太刀に入ったのだとカロージェロは考えた。
「ジーナさん! 私のことはいいのです! どうか、シルヴィア様を!」
「そういうわけには……いきませんっ!」
ジーナはカロージェロに反論しつつ、暗殺者たちと激闘を繰り広げた。
力量としてはほぼ互角か、ジーナがわずかに上回っていただろう。ただ、覚悟とは違う「人を殺す勇気」がジーナと暗殺者では違っていた。
ジーナは模擬戦でエドワードと戦ったり魔物を狩ったりしていたが、対人戦は初戦闘だ。
エドワードには、「決してためらうな。ためらったらシルヴィア様に危害を加えられる」と真剣に諭されている。だから覚悟を決めてはいるが、やはり人を殺すとなると覚悟とは違うものが必要なのだった。
できる限り致命傷を避けつつ戦闘不能にするべく立ち回っているのを、暗殺者の一人が悟った。
急に、ジーナの前に躍り出て、無手で煽ったのだ。
「ほーぉら。俺を殺してみろよ、お嬢ちゃん」
「!?」
ショートソードをふるおうとしたジーナは一瞬躊躇ってしまった。
それが、命取りだった。
背中に暗器が刺さる。
「ッ!」
ジーナは間一髪で身体を捻り急所を外したが、今度は煽った男が火魔術を放つ。
「ジーナさん!!」
カロージェロが魔術を放ったが、ほんの少し遅く、炎の攻撃を受けてしまった。
ジーナは霞む意識の中で、エドワードが真剣な顔で「君に何かあったら、シルヴィア様も、もちろん俺も悲しむ。悲しませないように、それ以外を文字通り斬り捨てていってくれ」と言ったこと、シルヴィアが無表情に魔物を瞬殺するのに驚いたジーナに言った一言「みんなを傷つけるやつはゆるさないです」、を思い出した。
――私は、覚悟していたと思ったのに覚悟していなかった、ここで死んだら、シルヴィア様とエドワード様が悲しむ――。
足をふんばり、目を見開き、左手のショートソードで追撃を防ぐ。
ニヤニヤ笑っていた火魔術の男の喉笛を、右手に持つショートソードで切り裂いた。
ニヤニヤ笑いの男は、自分が切られたのがしばらくわからず、血を噴き出しつつ、「なぜ」という言葉を言おうと唇を動かしながら、仰向けに倒れていった。
舞うように回転し、さらに一人仕留める。
だが、そこで残った最後の暗殺者がジーナの足に暗器を投げつけた。
太ももに刺さり、ジーナがバランスを崩して倒れる。
そこに、暗殺者が走り寄り、ジーナにとどめを刺そうとした。
「ジーナさん!」
カロージェロは結界の魔術を放とうとして――魔力が尽きた。
魔力切れでカロージェロも倒れる。
「――手間を取らせやがって!」
暗殺者がジーナに向けて暗器を振りかぶろうとしたとき。
「――風よ、すべてを切り裂け!」
暗殺者は、殺気を感じて身をひねった。
とたんに風魔術の
倒れ込みつつそちらに目を向けると、全身血まみれのエドワードが恐ろしいほどの殺気をまとい残りの暗殺者に襲いかかる景色が映った。
一瞬にして、ジーナを殺そうとした暗殺者は不利を悟った。
エドワードの桁違いの強さを感じたのだ。
その血まみれの姿は恐らく殺された仲間の返り血だ――そこまで考えると勢いをつけて起き上がり、倒れたジーナにもカロージェロにも目をくれず通用口にまっしぐらに走り、通用口から滑るように出ると扉を閉めた。そして素早く把手に暗器を差し込み容易に開かない細工を施すと、ひたすら走った。
「……くそっ! わりに合わないぞ、あんな化け物がいるなんて聞いてない! チームが全滅じゃないか!」
吐き捨てながら、これからについて思案しながら、隣国へ逃げていった。
カロージェロは、ジーナを助け起こしつつ必死に声をかけるエドワードを朦朧としながら見た。
見損なっていた、と思った。
演技かもしれないと思ったが……あの血は、敵を倒して浴びた返り血だろう。
さらに、あの殺気。暗殺者がターゲットである自分すら殺さずに逃げの一手をとるほど、エドワードは鬼気迫っていた。
突然、エドワードはギロッとカロージェロを睨んだ。
「おい! お前は神官だろ!? 聖魔術が使えるなら、ジーナに【
叫んだエドワードに、カロージェロはかすれた声で返した。
「……そうしたい、のです……が……。魔力、が……尽きています……」
エドワードは激しく舌打ちすると、ジーナを抱き上げた。
「お前は後回しだ。先にジーナを運ぶ。……そのまま放置したいのはやまやまだけどな!」
そう吐き捨てるとジーナを抱えて城の中に入っていった。
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