19話 次々と修繕されていく
次にシルヴィアが行ったのは水路の修繕だ。
水路は国全般で整備されているが、特に公爵領は整備が進んでいる。公共施設の行き届いた整備は、公爵領の自慢の一つだ。シルヴィアたちの道中も、有料の公共トイレや飲用できる人工の小川、ポンプなどが道沿いにあちこちあった。
それなのに、これだけ大規模な都市で整備されていないとは……とエドワードは眉根を寄せた。
シルヴィアもそのことは知っているのだろう。無表情だがわずかに怒っているようだった。
「『従者にひつような水路にもどせ――【
とたんに、サァアーという音が聴こえてきた。
「――これは、アレです。おそうじをサボったからです」
シルヴィアがメイヤーに説教した。
「ちゃんとめんどうをみるです。月イチでかならずおそうじするです。ちょうしがわるくなくても点検するです!」
メッ! とシルヴィアが言うと、メイヤーはうなだれた。
「……確かにおっしゃるとおりです。今度、水路の点検と清掃の依頼をかけます」
エドワードは二人の会話を聞きながら、公爵家としては旨味が少なく手入ればかりが必要な領地を切り捨てたんだろうな、と考えた。
ここは領地としても実質飛び地のようなもので、しかも、同じ国ならまだしも隣国を挟んでいる。城塞からは行き来出来るが、住民側からしたら隣国の方がよほど近い。
この城塞都市だけで営みが完成してしまうため橋を落とされ孤立させられてもどうにかなっていたが、そうじゃなかったら今頃この半島は住む人がいなくなり廃墟都市となっていただろう。
――いや、廃墟都市だと思っていたから、公爵家が故意にそうしていたからシルヴィアはここに送られたのだ、とエドワードは思い至った。
『橋は落とされた』とシルヴィアは言った。つまり、何代か前の公爵家当主がこの場所を廃墟都市にするべく行ったのだろう。だが、残念ながら住民はここで生活を続けた。
なぜなら、この城塞都市は広く、そして豊かだったからだ。
じゅうぶんに行き渡るほどの食料が生産され、この城塞都市の中で営みが完結できた。ゆえに、今まで保ったのだ。
「過去に何があったのか探るかな……」
メイヤーは何か知っているだろう。この都市の生い立ちを。
シルヴィアは、エドワードとメイヤーに連れられ町のあちこちを修繕していった。
日を追うごとに修繕が進み活性化されていくため、住民はシルヴィアに非常に好意的だ。
町を歩けばにこやかに手を振られ、感謝の印に食料を渡す者や小物を渡す者などが増えていく。
さらにはシルヴィアの移動範囲がどんどんと広がっていくため、エドワードは提案した。
「シルヴィア様。馬車を買いましょう」
「ばしゃ」
シルヴィアはキョトンとする。
「差し入れが多すぎて手荷物が増え、徒歩移動では大変になってきました。それに、この都市は思ったよりも広大です。端から端まで歩いたら半日以上かかります。やることが多い今、移動で時間を取られているのはもったいなさすぎます! メイヤーに乗せてもらったでしょう? あの馬がつながれたアレです、アレを城主の権力で用意してもらいましょう」
エドワードはもちろん、シルヴィアも歩いて疲れるといったことはない。だが、時間をとられすぎている。
メイヤーも住民もシルヴィアに非常に好意的だ。今なら『無料で馬車を用意しろ』と命令しても嫌な顔はしないだろう。
「エドワードはてんさいです」
シルヴィアはエドワードの言ったことがよくわからなかったのでそう答えた。
そう言うと、だいたいエドワードが解決してくれるからだ。
案の定、そう言ったシルヴィアを見てエドワードは苦笑した。
現在のエドワードは、騎士というよりも側近としてあちこちに指示を出している。
ジーナも現在侍女ではなく執事のような行動をしており、城塞の内部を把握し、修繕すべきところと後回しにするところを洗い出し、必要な日用品や使用人を増やすために役所で打ち合わせしたりをしている。
ジーナは、『シルヴィアに一生仕える』と決めたことでいろいろ吹っ切れ、シルヴィアを支えるべく精力的に活動し始めたのだ。
まずは衣食住……の食だけは苦手なのでそちらはエドワードに任せるが、衣装と住居は整えよう、と衣装を注文し、そして住に乗り出した。
器用に城塞の見取り図を書き出し、エドワードと今後どうするかの方針を決め、手をつけるべきところとつけないところとに分け、ギルドに城塞で働く下女下男と調理人の募集をかけた。
ジーナは人の扱いが上手かった。周りをよく見ていて空気を読み指示が的確なのだ。
「工房で働いていた」と言っていたが、恐らく工房長の娘だったんだろうな、とエドワードは考えていた。
ただ、立場の強い者が出てくると意見を呑むのがネックかな……とエドワードは評価していて、それらはほぼ当たっていた。
さらに、エドワードからいろいろと手ほどきを受けている。【器用敏捷】のスキル持ちのジーナは既に護身術と乗馬の合格点をもらっていた。
馬車はおろか荷台にすら乗れなかったのに、今では乗馬服を着て馬に跨がり町へ繰り出していた。工房で働いていた頃のジーナからしたら、自分の変わりようが信じられないだろう。
ジーナは乗馬するが、シルヴィアは出来ない。というより年齢的に足が届かない。エドワードはもちろん乗馬できるのでシルヴィアとともに騎乗することは可能だが、貴族の子女としては乗馬で移動よりも馬車の方が優雅だろう。
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