3章 都市修繕
18話 橋を直そう
エドワードは、まずメイヤーと交渉した。
シルヴィアが魔術をかけたことにより、メイヤーが裏切る可能性は少ないと踏んだのだ。
嫌なことは命令してもしないらしいが、城主として必要だ、と説かれれば魔術の性質上やるだろう。
「税は徴収されていないと言っていたよな? だが、シルヴィア様が城主となった以上、きっちり徴収させてもらう。特に、シルヴィア様は城主になり立てで物入りだ。過去徴収なかった分を全部納めろとは言わないが、ある程度はすぐ回してもらう」
「もちろんです。ただちに住民全員に通告いたします」
メイヤーはしっかりとうなずいた。
エドワードはもう一つ、重要なことを付け足した。
「あと、これから町への定住希望者は、必ず全員をシルヴィア様に面会させるように。この地に住む者で、シルヴィア様を知らない、シルヴィア様が知らない者などいないように徹底する」
それを聞いたメイヤーは感激した。
「なんと、住民を把握してくださるとは素晴らしい……! そのような主を持った私たちは果報者です!」
エドワードは内心(うん、表面的にはそうだけど、目的は違うんだよな)と考えたが、しれっとうなずいておいた。
資金を得たジーナは服飾店に行き、シルヴィアの服を何着も仕立てるように言った。
外を知らなかったジーナは、服飾において自分はそうとうの腕前であることがわかり、張り切った。
記憶の中からデザインを掘り起こし、パターンを書いてあとは服飾店に任せる。
もちろん自分とエドワードの服も買い足すが、『シルヴィアを着飾らせたい!』という熱望で、さまざまな衣装を作るように指示した。
シルヴィアは、まず一番深刻でかつ一番切望されている橋の修理を行うことになった。
エドワードとメイヤーが決め、シルヴィアにお願いしたのだ。
エドワードは前もってシルヴィアに諭した。
「シルヴィア様。魔術とスキルは伏せるようにお願いします。シルヴィア様の魔術は非常に特殊ですし稀です。そして城主として至上の魔術です。邪悪な者がどうつけ込み、どう利用してくるかわかりませんので、用心のため隠すようにしてください」
シルヴィアはまったくわかっていなかったが真剣なエドワードに合わせ、真面目くさった顔でうなずいた。
シルヴィアはエドワード経由でメイヤーに、橋の建築に必要な木材と石材、鉄などを橋のそばに置いておくよう指示していたのだが、メイヤーから「用意が出来た」との連絡が入ったのでいよいよ再建することになった。
エドワード、メイヤー、シルヴィアはかつて橋があった場所に立つ。
「……多少、残骸が残っているって程度かな」
エドワードがつぶやくと、メイヤーが苦笑した。
そこに『かつて橋がかかっていた』と分かるのは、そこだけ外壁がない、くらいしかなかったからだ。
「外壁と詰所は残っているのでそこに役人が待機し、依頼があれば船を出していますが……めったに渡る者はいません」
住民も集まってきて、遠巻きに見ていた。
エドワードはそちらをチラリと見ると、シルヴィアに尋ねた。
「……シルヴィア様。いかがですか?」
「だいじょぶです、いけます」
シルヴィアはうなずくと、橋があった辺りまで近寄る。
そして、しばらく考えた後、詠唱した。
「『従者を守る道を再建せよ――【
橋のあった部分をステッキで叩く。
「……おぉお!!」
野次馬たちが感嘆の声を上げた。
メイヤーは声もなく驚いている。
木材、鉄、石材が、まるでそこに存在していたかのように組み上がっていくからだ。
初めて見る魔術に全員が目をみはった。
そうして、見るまに橋が出来上がっていく。
「すごいな……」
何度か見ているエドワードも感嘆する。住民に至っては、狂喜乱舞といった感じだった。実際、この魔術を目の当たりにしたらそう思うだろう。
ここの住民からしたら、彼女の父である魔術騎士団長の代名詞である大規模火炎魔術などよりも、よほど素晴らしい。シルヴィアに対してひざまずいて祈る者さえ出始めた。
シルヴィアは、フゥ、と息を吐くとメイヤーに向かって言った。
「橋は、こわれたんじゃないです。こわされたんです」
「……え?」
メイヤーが啞然とした。
シルヴィアは続ける。
「こわされたので、今度はこわされないようにうごかせるようにしました。夜になったら橋をあげてください」
メイヤーはまだ啞然としていたが、エドワードがトントン、とメイヤーの肩を軽く叩き、
「城主が、朝開門し橋を下ろし、夜は閉門し橋を上げるようにとおっしゃっています」
と、促したら慌ててうなずいた。
「わかりました。ここに詰める役人にそのことを徹底させましょう」
「かしこまりました!」
言わずとも役人は一緒に橋が出来上がるのを見ていたので、しっかりとうなずいて敬礼した。
住民たちが面白がって橋を渡り向こう側へ行ったらしい。途中に隣国に入るための関所があるのだが、隣国の関所に詰めていた役人は、ゾロゾロと人が歩いてきたので腰を抜かすほど驚いたそうだ。それくらい、人通りが絶えている道だった。
ちなみに、公爵領から隣国へ行くには隣国の関所、隣国から公爵領へ行くには公爵領の関所を通るのだが、公爵領の関所には誰もいないので素通りできるとのことだった。
「まぁ、俺が勤めている間も一人として通った奴はいないからいいんだけどな……。ただ、向こうさんがサボってるのを目の当たりにすると、ちょっと腹立たしいよな」
と、言っていたと住民がメイヤーに話し、メイヤーがエドワード経由シルヴィアと相談して、橋も開通したことなのでこちらから役人を派遣することになった。
詰所の役人が午前午後の二部交代でどちらかに就き、朝、開門したら一人は関所に行って関所を開門、夕方帰るときに閉門し、橋を渡って合流して閉門する、とした。
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