17話 城主となった日。二人の誓約
メイヤーが約束した日。
城塞の外壁の内側にある斜面……恐らく民衆を集めるための広場には、住民が集まっていた。
メイヤーは住民全員に通達した。
公爵家がようやく城主を送ってくれた、城主はこの都市の修繕を約束してくれたが、そのためには一度、住民全員との顔合わせが必要となる、何があろうとも絶対に出席するように、家族の代表や代理が参加するのではない、年齢関係なく全員が出席すること、参加しない場合は修繕は行われないという事態になるかもしれない……と、脅し文句もそっと添えて集めたのだ。
へそを曲げる住民もいたが、『自分が行かなかったことで約束が反故にされ修繕が行われなかった』ということになったら全員から非難を浴びることになる。
何せこの都市には逃げ場などないのだ、『爪はじき者にされる』ということは『死』と同義だ。
キッチリと全員が集まった。
しばらくするとメイヤーに伴って、シルヴィアが現れた。遅れてエドワード、ジーナがシルヴィアの後ろに控える。
皆、「あんな小さい子が……?」とヒソヒソ話すが、メイヤーが咳払いした後にシルヴィアを紹介した。
「よく聞け皆の者! こちらが公爵家令嬢であり、この度このフォルテ城塞都市の城主となられたシルヴィア・ヒューズ様であられる! シルヴィア様から、住民全員にお話があるそうだ!」
いっせいに皆がシルヴィアを見た。
ジーナもエドワードも。
ジーナは内心のハラハラした気持ちを隠さず心配そうに見つめ、エドワードはポーカーフェイスであったが、つい周囲の観察ではなくシルヴィアを見てしまっていた。
シルヴィアは無表情にステッキを掲げる。
「シルヴィア・ヒューズです。『私がこの城塞のもちぬしで、私がこの都市の城主です――【
シルヴィアがステッキで思いきり地面を突いた。
無音だが、確かにその音は静かに響き渡り、広場を超え、都市全体にさざ波のように広がった。
一瞬、グラッとシルヴィアが揺らめいたのでジーナとエドワードは瞬時に駆けよったが、ステッキを支えにしてシルヴィアは立ち直し、ジーナとエドワードを制した。
――そして。
ワァッと歓声が上がった。
その歓声は、好意的に受け入れられた証拠だ。
「みなさんにうけいれてもらえたので、修繕できます。ありがとう」
歓声よりもずいぶんと小さい声でシルヴィアが言ったが、住民全員に届いていた。
――それは、魔術が成功した証しだった。
今までとは打って変わったように血色が良くなり、溌剌としたシルヴィアを見た二人は、「慢性的に魔力が足りていなかったんだな」と察した。
けだるそうだったのは、実際けだるかったのだろう。
エドワードは、正直領主としての魔術は現在の公爵家当主よりも上なんじゃなかろうか、それどころか魔術騎士団の指揮官としても『離れていても伝達できる魔術』は非常に優秀だろう、とも考えた。
だからこそ。
いつかシルヴィアの優秀さに気づいた両親に抹殺されないよう、これからこの城塞都市を発展させて難攻不落にさせなくてはいけない。
「……ヤバいな。血がたぎる」
エドワードはニヤけそうになる自分を抑えた。
自分がこんな性格だったとは。
……だが、シルヴィアを主と崇め、その右腕として彼女が手中に収めた都市を強化し彼女の敵を排除していくことを考えたら、今まで感じたことがないほどに心が昂ぶるのだ。
「シルヴィア様」
エドワードは声をかけるとシルヴィアの前に片膝をついた。
「私は貴方の盾となり剣となる者です。そして、これからこの、
シルヴィアは驚いたように目をパチクリさせた後尋ねた。
「ずっと私のそばにいるですか?」
「はい」
「ずっとですよ?」
「はい」
シルヴィアは考えた後、手を差し出す。
エドワードがその手を取ったとき、シルヴィアが口を開いた。
「『エドワードと私の約束を有効にせよ――【
エドワードは、そうくるか、と思ったが素直に受け入れた。
契約した。罰則は特にないが、魔術で縛ったのだ。
それはエドワードだけではなく、シルヴィアも縛る。
第三王子のときのようにエドワードがえん罪で陥れられようが、逆にシルヴィアがえん罪で陥れられようが、もう離れることは出来ないのだ。
――と、エドワードの横にジーナが座った。
「エドワード様、ぬけがけはズルイですよ? ……シルヴィア様。私も、ずっとおそばにおります。一生お仕えいたしますからね?」
そう言ったジーナを、エドワードは驚いて見つめる。
「……え。大丈夫なのか? 俺はいろいろあって結婚とか考えてないんだけど、ジーナはまだ若い……というか少女じゃないか。将来――」
「結婚はするかもしれませんが、それとこれとは別の話です! たとえ結婚してもおそばを離れるつもりはありません!」
「旦那が『別の土地に行く』っつったらどうすんだ?」
「旦那様に妥協してもらうに決まってるじゃないですか。私は城主に仕えているんですよ? 誰と結婚しようが旦那様が妥協するのが当たり前でしょう?」
キッパリと言い切ったジーナ。エドワードは不覚にもカッコいいと思ってしまった。
確かに、まだ相手もいない段階で考えることではないし、契約してしまったら相手が妥協するほかないだろう。
シルヴィアはジーナには念押しの確認すらせずに手を取り、契約呪文を唱える。
「あれ? 俺の時はあんなに念押ししたのに」
エドワードがつぶやくと、ジーナとシルヴィアはキョトンとし、顔を見合わせて笑った。
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