13話 これからの行動予定を話し合う
シルヴィアが目を覚ましたのは、朝食の匂いを嗅いだからだ。
むくりと起き上がり、開口一番、
「エドワードはてんさいです」
と、言った。
「はいはい、おはよう」
「おはようございます。シルヴィア様、まずは顔を洗いましょうね」
二人が挨拶し、ジーナはシルヴィアを連れて洗面所に向かった。
二人を見ていたエドワードは、そこそこ侍女っぽいことを出来ているなと思っていたが、ジーナとしては小さい子の面倒を見ている感覚だ。職人たちの子どもの面倒を見ていた経験があったので、慣れていたのだ。
シルヴィアが顔を洗うとジーナが軽く拭き取り、着替えさせて髪を梳かし結わえる。
手早く支度を終えて、ソファに座らせる。
「今後のことは、食べてから話そう」
「はい、いただきます」
エドワードが言い、ジーナが同意して、皆で食べ始める。
卵の炒めたものと、干し肉と乾燥野菜を戻したスープ、クラッカー。
大した物じゃないのは、手持ちの非常食で作ったからだ。エドワードの食事を食べたことでシルヴィアの魔術が進化し野菜や肉としか思えないような謎物体を産み出せるようになったため、道中はシルヴィアの産み出す謎の食材で作ってきた。
それでも、いつ何時何があるかわからないからとエドワードが言って非常食を買い求めていたのが幸いし、シルヴィアが倒れても夕食と朝食はなんとか賄えた。
卵だけは、さきほど鶏が産んでくれたのをもらってきたものだが。
ジーナもシルヴィアもいつもより粗末な食事なのにニコニコして食べている。
「たいしたものじゃなくて悪いな」
と、エドワードが言ったらジーナもシルヴィアも同時に首を横に振る。
「エドワードはてんさいです」
「とても美味しいです。いつもありがとうございます」
ちなみにジーナは壊滅的に料理が下手だった。器用敏捷は、そこには働かないらしい。
食事を終え、お茶を出すとエドワードが切り出した。
「シルヴィア様、あとで家畜たちの食事用に野草をお願いできますか」
「うん、やります」
シルヴィアがうなずいた。
「……で、今後なんですけど。シルヴィア様はどうするつもりですか?」
シルヴィアはエドワードにそう尋ねられてちょっと困ってしまった。
「私は、ひとりでくるつもりだったから、なにもかんがえてなかった。私の魔術で生活はできるけど」
もじもじしながら言う。
ジーナも困る。
シルヴィアに仕えるつもりだし、今まで給金なく働いていたからそこはまったくかまわないのだが、シルヴィアの魔術に頼り切りの生活になってしまう。それでいいのか、とふと思ってしまった。
困っている二人に、エドワードは説明し始めた。
「――まず、シルヴィア様はここの城主です。その辞令があるので決定事項ですね。ならば、この城に城下町……まではいかなくても村があれば税を取れます。今までどうしていたのかわかりませんが、とりあえずは交渉して税収を得ましょう」
シルヴィアもジーナも目を丸くした。
そんなことができるの? という顔をしている。
「城をくれた、ということはそういうことです。城主として指名されたなら、城を守るために税収を得るのは当たり前です。今まではいなかったのだから無税かもしれませんが、シルヴィア様は城主に指名されたので、これからはシルヴィア様が税を徴収することになります」
エドワードがキッパリと言った。
エドワードとしては、無理やりだろうがこの論法で押し通すつもりだ。公爵家がどういう理由で指名してきたのだとしても、城主ならば城を維持しないといけない。それが取り消されない限りは。
いつか発覚して任命を取り消してくるか税収を取り上げるかするだろうが、それまでにある程度の財産を築いてトンズラすればいいと考えている。
シルヴィアの魔術はかなり有用だ。めんどくさいことになって三人で逃亡する羽目になろうが逃げ切れると確信している。特にこの地は隣国に近い。いざとなったら隣国へ逃げ込もうと決意している。
二人は目をパチパチと瞬きさせると、エドワードをキリッとした顔で見た。
「わからないけど、わかった」
と、シルヴィアは返事をした。
「そうですね、家畜の食事を用意したら、まずはあちこち見て回り、表門の方に行ってみましょう」
ジーナは目下の行動にランクを落として提案した。
行動方針が決まり、三人はまず家畜のところに向かった。
シルヴィアはがんばった家畜たちを褒めた後、魔術で家畜たちの好む野草を生やす。
「到着したから、お前たちもここからでなければ、たんけんしていいぞ」
と許可を出していた。
シルヴィアと家畜たちが戯れている間、エドワードはジーナに近づきこっそりと話した。
「……ジーナ。お前、少し護身術を覚える気はないか?」
「はい?」
ジーナがキョトンとする。
追っ手撃退のため願ってもないが、どうしてまた、と不思議がる。
「シルヴィア様に必要なのは、紅茶が美味しく淹れられる侍女より、何かのときに身を守ってくれる侍女だ。あるいは自力で身の守れる侍女だな、シルヴィア様自身戦えるから。今、一番弱いのはジーナ、君なんだ」
ジーナはそう言われてうつむいた。縫い物以外取り柄のない自分だと悟り、暗くなる。
エドワードは慌ててフォローする。嫌みを言いたいわけじゃない。
「普段の侍女としては今の感じでいい、よくできている。あとは急場の対応だ。本気で戦えなくてもいいんだよ、ただ油断している奴を撃退できるか戦闘不能までもっていければ、自分自身の身を守る、っていうのでも今後の役に立つと思ったから」
「ありがとうございます。……私もいろいろ事情があって、護身術は願ってもないことです。よろしくお願いいたします」
ジーナはエドワードに頭を下げた。
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