14話 城塞の探索、からの改築
「エドワード、これをどうにかしてください」
二人がシルヴィアの声にそちらを向くと――謎肉をまた作り出していた。
エドワードはニッコリと怖い笑顔でシルヴィアに微笑みかけ、シルヴィアがびくりとする。
「シルヴィア様、何をしてらっしゃるのですか? 家畜たちのエサは、俺では用意できなかったので頼みましたが……『肉を出してくれ』とは頼んでいませんよね?」
エドワードがばか丁寧に言った。
「え、あ、う」
「シルヴィア様の魔術は非常に有用です。ですので、俺とジーナで用意できそうなものまで魔術で用意されなくても良いのですよ。シルヴィア様の魔力は有限ですので、必要なときに魔力切れを起こされると困るのです。わかりますか?」
「はい」
シルヴィアが縮こまった。
ジーナが慌てて間に入る。
「お肉が食べたかったんですよ! お昼はお肉を焼きましょう! ね? シルヴィア様――これは私が受け取りますね!」
笑顔でシルヴィアから肉を受け取った。
エドワードはため息をついて独りごちる。
「今日も草むしりかな」
家畜たちがのどかな鳴き声をあげた。シルヴィアのためにやる気になっているようだった。
謎肉は厨房にあった貯冷蔵庫にしまい、そのあと三人は一階部分の探索に乗り出した。
厨房の他に兵舎や武器庫があり、そして中ほどの海側に鍛冶場もあった。その反対方面には厩舎と納屋がある。近くには畑らしき場所もあった。
三人はここで立ち止まり、エドワードは腕を組んで厩舎のある中庭を見渡した。
「家畜はここのほうがいいかな。日当たりもいいし裏門より広いし、整えれば専用の寝床もある」
エドワードがつぶやくと、シルヴィアはうなずいて、
「『従者のすみやすい住居にととのえよ――【
と詠唱する。
雑草や邪魔な雑木が一気に撤去されていく。それと同時に朽ちた厩舎と納屋が新品に生まれ変わった。
馬用だけではなく、ちゃんと鶏小屋や牛や豚や羊など、それぞれ建てられていく。
エドワードはそれを見ながら『しまった』と、反省した。独り言だったのだが、シルヴィアからしてみれば魔術の催促にしか聴こえなかっただろう。魔力の残存量が気になり、そっとシルヴィアを見た。
「……同時に草むしりしているから、魔力はセーフ?」
「セーフです」
エドワードの問いにシルヴィアが答えた。
ほどなくして家畜たちがゾロゾロとやってきた。
どこにいても聞こえる【支配】の魔術が効いているので、シルヴィアの声でやってきたのだ。
家畜たちは喜び(?)の声をあげ、思い思いに駆け出した。
「せまかったので運動ぶそくでした」
シルヴィアが言う。
「それで草むしりがんばったのかね」
今朝の惨状をエドワードは思い出した。
畑はどこかで種をもらえたら植えよう、ということで(シルヴィアが何か魔術でしようとしたのを「シルヴィア様? 今何かされようとしていませんか?」と笑顔でエドワードが尋ね、ビクッとしたシルヴィアをかばうように「畑には、野菜の種を植えましょうか! 町に出たときに、種をもらえるか頼んでみましょう!」とジーナが慌てて言った)、家畜を残して三人は表門に向かった。
途中にある階段を上ると、踊り場に出た。眼下には広いエントランスがあり、大きな扉がある。
あまりのエントランスの荒れっぷりに三人が顔をしかめ、シルヴィアが訴えるようにエドワードを見た。
シルヴィアの意図が分かり、エドワードは苦笑する。
「……さすがにこの惨状でこの広さだと俺とジーナだけじゃ掃除は無理ですね。お願いできますか?」
シルヴィアがうなずくと、
「『あるじにふさわしい部屋に改装せよ――【
と唱える。
まるで頁をめくるように綺麗になっていった。よく見れば、あちこちが魔術をかける前と違っている。
よくわからない魔術だなと思いつつ、「ありがとうございます。さすがですね」と、エドワードはシルヴィアを褒めた。
ジーナは手放しでシルヴィアを讃えている。エドワードは甘やかし過ぎだなとは思うが、甘やかされたことのない子のようだからいいか、と思って止めなかった。自分は厳しさ担当、ジーナは甘やかし担当だとも考える。
綺麗になったエントランスの中央階段を下りて玄関扉の前に立つと、自動的に開かれた。シルヴィアの魔術に慣れてきたので、もうジーナもエドワードも驚かない。
そのまま進み外に出た三人は、開かれた扉の先の光景に目をみはった。
裏門のほうは雑木林と崖だったが、こちらはのどかな草原の景色が広がっていた。
手前の門までの道は、元はしゃれた庭園だったのかもしれないが現在は草に覆われている。だが、それでもなかなか美しい。
手前の門を出て少し離れると斜面になっていて、その先に濠とさらに門がある。濠の先に町があり、さらに奥には畑や牧場があるようだった。
「……綺麗なところですね」
ジーナが感嘆して言う。
「裏門の外壁はかなり高かったのに、こっちはそうでもない。中庭の外壁も高かったから……なんか、まるで公爵家から攻撃を受ける前提みたいに作られているんだな」
エドワードは外壁の作りに首をひねっていた。
『城塞都市』はここを見るのが初めてなのだが……元騎士としては、城の外壁をもっと高くしてほしいと思う。これじゃ、守りに弱いぞ。
ともあれ、町に行ってみようと三人は歩き出した。
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