11話 タイトル回収! 部屋改修!

 家畜たちはその場にとどまり、草をむしり虫をついばむ作業を続行することになった。

 水場もあり、休むことはできるようだ。


 エドワードはシルヴィアを抱きかかえ、建物に入る。ジーナも後ろに続いた。

 扉に近寄れば自動的に開き、廊下にある照明の魔導具が灯った。

「……これって、魔術を使ってるワケじゃないよな?」

「城塞がやってくれてます」

「完全服従してますね、城塞」

 ジーナが呆けて言った。


 シルヴィアの指示通りに歩き、とある一室にたどり着く。

「城主の部屋です」

 シルヴィアがつぶやくと、ドアが開いた。


 エドワードがシルヴィアを抱えたまま中に入ると、

「うん、ま、そりゃそうだよな」

 と、つぶやいた。

 中は廃墟と化していたからだ。


 エドワードはどうするかと悩み、ジーナはひそかに掃除を決意していたら、

「『あるじをもてなす部屋に……――【改修リノベーション】』」

 と、シルヴィアが詠唱した。

「おいッ! やめろ! 魔力がないのにそんなことしたら……」

 慌てて止めたエドワードだったが、既に遅く、地震かと思うような揺れをしたと思ったら、埃が一気に拭い去られ、床や壁紙、窓、天井、家具が一気に新品になっていった。


「「…………」」

 エドワードとジーナが呆れて周りを見渡す中、完全に魔力を使い切ったシルヴィアは満足そうに気絶した。


 シルヴィアが目を覚ますと、ベッドで寝ていた。

 そしてなぜ目を覚ましたのかわかった。食べ物の匂いがしたからだった。

 むくりと起き上がると、ジーナが気付いた。

「あ! 目を覚ました!」

 ジーナが駆け寄る。

「エドワードのごはんの匂いがします」

「うん、そうなの。台所を見つけたので、私が掃除をしてある程度使えるようになったらエドワードが作ってくれたの。水も普通に出るし魔導具も使えたわ。それで……許可なく使って申し訳ないんだけど、汚れちゃったのでこの部屋についているお風呂も使わせてもらっちゃった。今、エドワードが入っているわ」

「勝手につかってへいきです」


 エドワードが浴室の扉から出てきた。

 腰に剣を履いていた。

「起きたか」

 ホッとしたように言った。

「悪い。汚れたんで勝手に風呂を借りた。あと、コレも」

 剣を指さす。

「『誰もいない』ってことだけど、何かあったら困るからここに置いてあった剣を借りてる。その代わり、ちゃんと守るから」

「勝手にしてへいきです」

 シルヴィアが繰り返した。


 シルヴィアが食事をとると、顔色が見る間に良くなり、そして笑顔になった。

 その笑顔を見て、ジーナも笑顔になる。

「良かったぁ~。元気になって、しかも笑顔になってくれて」

 シルヴィアはキョトンとしたあと、真面目な顔で言った。

「エドワードは、てんさいです」

 エドワードが苦笑する。そして尋ねた。

「もしかして食事でも魔力が回復するのか?」

 シルヴィアはうなずく。

「何かを殺したり、食べたりすると回復します」

 エドワードが固まった。

「……それって、なんでもいいのか?」

「魔力がある物ならなんでもいいです。私に従うものがやってもいいみたいですけど、自分でよりもすくないです」

 エドワードは、シルヴィアを放逐した両親に呆れた。

 〝魔力奪取〟なんてものすごいスキルなのに、何を考えているんだ、と。


 夕飯を食べた後、見るからに眠そうになったシルヴィアを二人で寝かしつける。

「ジーナは一緒に寝ればいい。俺はひとまずソファを借りるかな」

 そう言って離れようとしたら、シルヴィアがエドワードの服の裾をつかんで離さない。


「……シルヴィア?」

「大きいベッドなので、三人でおやすみできます……」

「いやそれはまずいだろ」


 別に何かする気は無いが、同衾するのは独身の女性二人に傷がつく可能性がある。

「一緒におやすみするです」

 ジーナが苦笑した。

「エドワードさん、平気です。私も気にしませんから」

「えぇ~……。まぁ、この三人が黙っていればいい話だけどな……。とはいえ、一応護衛のつもりなんだけど?」

 ジーナが首を横に振った。

「とにかく休みましょう。私たち、疲れていますし。明日以降のことは明日話しましょう?」

 ジーナもいろいろ思うことがある、とわかったエドワードは苦笑を返し、諦めて横になった。


          *


 エドワードは、シルヴィアが倒れたのを見た自分が思った以上に動揺し、主君に対しての言葉遣いに戻ってしまったことに内心舌打ちした。

 昔の自分に戻るのが怖かったし、あの頃の自分が大嫌いだった。

 人の表面のみで人格を判断し信じ切っていたクソ真面目野郎。さぞかし利用しがいがあっただろう。


 振り返ればいろんな連中に利用されていた。侯爵家の子息がやるようなことじゃないどころか下級騎士以下のことをやらされていたのにわかってなくてヘラヘラしながらやっていた。

 今の自分からしたら「バカじゃねーの?」って思うし、今の自分が昔の自分を見かけたら「気にくわねーけどせいぜい利用させてもらうわ」って思うだろう。

 だから、あの頃の感覚を思い出したくなかった。


 だけど……。


 シルヴィアの周囲には自分を嵌めるような奴はいない。というか、嵌めてまで手に入れたいものを持っていない。

「……守る。けど、完全に信用したわけじゃないし心を許したわけでもない」

 勝手に主君の剣を帯剣するなど、本来なら首を跳ねられるほどの問題だ。

 だから試した。


 ぼんやりしたシルヴィアは、相変わらずぼんやりした回答だった。

「いや叱れよ」、って思ったけれど、そういうふうに育てられてないのだろうなという確信を持った。

 放置され、とうとう普通の子どもならたどり着けないであろう場所へ一人で向かわせられた子ども。

 エドワードは、無性に不憫になり、シルヴィアの髪をそっと撫でた。

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