CASE5 MAYOHIGA 上
俺の名は 藤堂 春人。
友人にはハルなんて呼ばれてる。どこにでもいる高校一年生だ。
俺はエリカ先輩の実家の寺に来ていた。
敷地は立派で掃除も行き届いている。
思ったよりも普通の寺で安心したというのというのが、正直な感想だった。
神社と違い社務所みたいなところはなく俺はご本尊が祭られている本殿に行き声を掛けた。
そうすると感じのいい女性の声が返ってきた。
「はーい! どなた~?」
出てきたのは、声の通り愛想のよさそうな和服の若い女性だった。
「あらあら高校生がどうしたのかしら?」
その女性は俺を見ると不思議そうな顔を浮かべた。
どうやら何も聞いていないようだ。
俺はまぁ仕方ないと挨拶することにする。
「初めまして、エリカ先輩から言われてきた。藤堂 春人といいます。 エリカ先輩はいらっしゃいますか?」
挨拶をすると更に女性は困った顔をする。
どうしたのだろうか?
俺が疑問に思っていると女性が話し出す。
「これはご丁寧にごめんなさいね。 エリカはまだ帰ってないわよ?」
帰ってないなのかよ!
俺は脱力した。あの先輩の気まぐれはいつものことだが、今回は酷い。
どうしたものかと、俺が考えていると、女性は心配そうにこちらをのぞき込む。
「もしかして、主人に御用かしら?」
ん? 主人? 俺は疑問を口にする。
「もしかしてエリカ先輩のおかあさんですか?」
「えぇそうよ? どうしました?」
若く見えておかぁさんだとは思いませんでしたなどと素直に言えるほど俺に人生経験はなかった。
おれはごまかすように、話をつづけた。
「そういえばエリカ先輩がおとうちゃんに話とくって言っていました」
「あーそういうことね~。あの子あんまりそういう話私には言わないから~。わかったわ、主人呼んでくるから本堂で待っていてくださる?」
どうやら、話が纏まりそうだ。
俺は案内された通り、本堂に向かう。
本堂は大きな大仏が鎮座しており、荘厳な雰囲気を醸し出していた。
俺はしゃちほこばって正座しながら待つことにした。
どのくらい時間がたっただろうか、気づくと袈裟を着た筋骨隆々の大男がお堂に入ってきた。
居佇まいは堂に入っている。だが、全体的に坊主というよりは余りの強面に頭にやのつく自由業にしか見えない。
俺がそんな失礼なことを考えていると、大男は破顔して話しかけてきた。
「おーどんなもんかと思ってたが、そこまでひどくはなさそうだ」
どうやら気さくな人柄のようだ。
見た目に比べ、そんな怖い人ではなさそうだった。
「今日はお時間いただいてありがとうございます。 初めまして 藤堂 春人といいます。 えーと、エリカ先輩に言われてきました」
「おうおう。 エリカからはきぃとるよ? バケモンに絡まれて難儀しとるって、まぁ少し話しようか?」
どうやら、先輩と違い大分まともな人物のようだ。
どうしてこの人から先輩みたいな不思議な人が産まれるのだろう……。
俺は今までにあったことを話した。
すると、大男は俺に頭を下げてくる。
大の大人に頭を下げられて俺はぎょっとする。
頭をあげてもらうように頼むと、今度はなぜこんなことになっているか説明してくれた。
「おそらくそれはたまたま君が、うちの娘にあてられちょるんやな。 まぁそんなよくある話じゃないんじゃないんだが、河童はほんとたまたまなんじゃが、それ以降はたまたま居合わせた君は怪異に見初められちまったんじゃ」
「うぇ? どういうことです?」
「本来なら、そんな長引くこともなかったはずじゃがたまたまエリカが近くにおったろ? それで、エリカは法力がつよいけんバケモンどもは普通は近寄らん。 だが一緒にいた君は普通の子やけん。 河童、エリカ、ハル君ちょうどその三者が居合わせたことでバケモンとの縁が君に産まれてしまったちゅうことやな。 まったくあんの馬鹿は気を付けろゆぅとったはずなじゃがなぁ……」
なんというか、ひどいマッチポンプだった。
原因はエリカ先輩にあるようだ。
俺は衝撃の事実に困惑したが解決策を聞いてみた。
「あのそれで……。どうやったら治りますか?」
「まずは縁切りの法じゃのう。あとは形代写しとかじゃろうか? いろいろやってみてバケモンどもが、君に興味をなくすまでやり続けるしかない。 まぁ心配しなさんな。永代呪法とか、怨魅(えんみ)とかそういう凝り固まった呪いなんかじゃないけんワシみたいな修行の足りん坊主でもなんとかなるけんね」
その言葉に俺は少し安堵した。
その後、俺ははなれに移動させられなにやら焚火の前に座らされた。
護摩祈願というらしい。
熱心にエリカのお父さんが真言を唱え一時間ほどたつと帰らされた。
帰り際、数珠とお札をいくつか渡され懐に閉っておくように言われその日は何事もなく帰った。
今後は週に一度、来るようにだけ言われたのだった。
ちゃんとした対応をされ、少しだけ俺は気分が軽くなったのを感じるのだった。
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