第7話

「奈月!これすごい!」

「ほんとだ!!」


無事にライターとキャンドルも買うことができ、始まった手持ち花火が始まった。楽しい旅行もいよいよ終盤だ。


「ちょっ!これめっちゃ勢い良いんだけど!!」

「おいこっち向けんなよ!」

「ねえ私もそれやりたーい!」


勢いよく吹き出すカラフルな明かりと、匂いと、夏を思いっきり感じて皆のテンションも自然と上がっていた。もちろん私も例外ではなくて、両手に花火をもって思いっきり振り回すなんてしてしまった(こら)。気づけば時間はあっという間に過ぎていた。


「もう花火も終わっちゃうね。」


横山くんの言葉で残りの花火に目を向ければ、残りは線香花火のみ。ああもう終わっちゃうのか、と途端に寂しくなる。


「・・・これは誰が一番長くできるか勝負だな。」

「その勝負乗った。」


神谷くんの言葉にいち早く反応したのは案の定千里だ。


「よっしゃ、何賭ける?」

「無難にジュースとか・・・じゃつまんないよねえ。」


真剣に話し始める2人の視線が私たちの方を向く前に、

要があー、と声を出す。


「俺は勝負参加しなくていいや。」

「私も。」


要と共速攻で辞退し、顔を見合わせて笑ってしまった。…なんせ運動部2人の勝負への執着は半端じゃない。負けず嫌いの千里と同じく負けず嫌いの神谷くんの勝負は、恐ろしいくらいにガチなのだ。横を見れば横山くんと由香ちゃんは既に思わずニヤけてしまいそうなムードの中にいて、邪魔をしないようにと要の方を向く。


「はい。」

「ありがと。」


要に線香花火を手渡して2人で砂浜にしゃがみこんだ。


「・・・さて、なに賭ける一週間要ね。」

「うわ地味に嫌なやつ。」


ロウソクに火をつけながら要が嫌そうに顔をしかめる。


「要は?」

「んー。じゃあ俺が勝ったら、鈴香さんにそろそろ彼氏できましたか、って聞いてみて。」

「え、なにその爆死確実な罰ゲーム。」


鈴香さんの怒った顔が頭に浮かんで笑いがこぼれる。きっとそんな事聞こうもんなら容赦ないパンチが飛んでくるだろう。そんな事を話している間にロウソクに火がついて、2人でせーので線香花火に点火する。


パチパチと徐々に激しくなる線香花火を見つめていれば、急に終わりを強く感じて、切なくなった。


「・・・帰りたくないなあ。」


思わずそんな言葉が溢れて、要も笑って頷く。1回目は2人同時に落ちてしまったため、2本目を取り出して火をつける。


「奈月。」


出来るだけ揺らさないように、と花火に集中していた私。要の呼びかけに顔を上げれば、その顔は真剣そのもので。


「・・・来年も。」


・・・まるで一世一代の告白でもするように、要はゆっくりと言葉を紡ぐ。


「来年も、皆で来よう。」


「な・・・にそれ」


余りにも要が真剣な顔でそう言うものだから、思わず吹き出してしまう。


「・・・なんで笑ってんだよ。」

「だって・・・!顔が面白くて・・・!」

「失礼すぎんだろおい。」


いいよもう、と少し拗ねたように要が言うからそれもまた楽しくて。ひときしり笑った後、要の名前を呼ぶ。


「要。」

「・・・なに?」


「来年も、皆で来ようね。」


さっきの要の言葉を繰り返す。

要は少し驚いたような顔になってから、嬉しそうに、でも何だか泣きそうに笑った。なんだか照れくさくなって、もう一度線香花火に目を戻す。横山くんと由香ちゃんが楽しそうに話している声が聞こえてきて、おそらく負けたのであろう千里の悔しそうな声と神谷くんの笑い声も聞こえてきて、隣では要が楽しそうに線香花火を見つめる。なんだか胸がいっぱいになって、そして少し、泣きそうになった。


これから先、何があっても。

私はきっと今日の事を、忘れないだろう。

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