第6話
海でたっぷり遊んだ後。海の家に併設されているバーベキュー場を借りて、始まったバーベキュー。
「要!そこ!焦げてる!」
「どこ?うわ!ほんとだ!」
トングをもっててんやわんやの男子3人を横目に、私達は座ってアイスクリームを食す。うん、おいしい。
「おい手伝えよ。」
「そういうのは女の子の仕事じゃないでーす。」
「女の子?どこにいんの?」
「要くん殴るよ??」
「まあまあ2人とも。ほら、そろそろお肉焼き始めるよ~」
「よっしゃ!はい!手伝います!」
要と言い合っていたはずの千里は、横山くんの声にころっと態度を変えて網の方へと近づく。小学生か。
「いてっ。」
「なに笑ってんだよ。ほら手伝え。」
どうやら皆のやりとりに笑ってしまっていたらしい私。無意識って怖い。私の頭をうちわではたいた要は、ん、と私の手元に顔を近づける。
「一口。」
「・・・仕方ないなあ。」
「要も買えばよかったのに」そう言えば「こんな甘いの全部は食べれない」と一蹴されてしまった。その割にはとても大きな一口でしたけどね、ええ。
海ではしゃいでお腹がペコペコだった私達は皆食べるのに夢中だった。
「由香ちゃん。ちゃんと野菜も食べてる?」
「うっ・・・食べ・・・てるよ・・」
「バレバレの嘘つかない。」
「・・・ごめんなさい。」
彼氏というよりオカンみたいな横山くんが由香ちゃんのお皿にキャベツと玉ねぎを乗っける。それを頑張って食べようとする由香ちゃん。微笑ましくて笑っていれば突然私のお皿の上にも何かがのせられて。
「・・・ねえ。」
緑色のそいつは、私の宿敵。
「ちゃんと野菜も食えよ。」
「食べてるよ!」
「ピーマンも?」
「・・・。」
ニヤニヤと笑って私の顔を覗く要。私のお皿にピーマンを乗っけた犯人。私が大っ嫌いなこと知ってるくせに、なんてやつだ。
「え!奈月ちゃんピーマン食べれないの?意外。」
「奈月ってそういう所おこちゃまだよね。」
「うるさいよ2人とも。」
これみよがしにからかってくる千里と神谷くん。別に野菜全般が嫌いな訳ではない。基本的にはなんでも食べれるのだが、こいつだけは駄目なのだ。どう頑張っても仲良くなれそうにない。隣の要はほらほら~、とピーマンをつつく。むかつく。要だってエリンギ食べれないくせに。今日買ってくればよかった。
「・・・食べますよ!食べればいいんでしょ!」
半分ムキになって宿敵を口の中に押し込んだ。
・・・あれ。意外と、いける?
「うわっ・・・にっが・・・。」
そんなわけない、やっぱり嫌いだ。
一口噛めばすぐに苦みが広がって私の口の中を支配する。すぐに要が水を差し出してくれて、敵ごと一気にのどの奥へと流し込んだ。
「おー!奈月ちゃん頑張ったね~」
「えらいえらい。よく食べられたね~。」
「苦いの我慢できたねーよしよし」
「…覚えてなよ。」
そう言いつつも千里が私の口にお肉を入れてくれるからありがたく頂く。おそらく涙目になっているであろう私。やっぱりピーマンとはいくつになっても分かり合えそうにない。
「奈月薬も飲めないもんな。」
「え!?そうなの!?」
「ちょっと要余計なこと言わないで!」
「粒も苦手で粉薬なんて飲もうもんなら吐くね、この子は。」
そう言っておどけて腕組みをしながらうんうん、と頷くから少し強めに叩いておいた。苦いのものが苦手で何が悪いのさ!と力説すればめずらしく横山くんに呆れたように笑われてしまった、1番傷つく。
「そういえば花火やるのにライターもマッチもないね。」
「「・・・あ。」」
神谷くんの言葉に皆で顔を見合わせる。持ってきた野菜もお肉も大体終わって、焼きそばを食べながらそろそろ片付けて花火をしようと話していた私達。花火は海に来る途中でちゃんと買ってきたのに。火をつけるものの存在を忘れていた。
「完全に忘れてた・・・。」
「あ、私買ってこようか?」
すぐ近くにコンビニがあった事を思い出し、財布をもって立ち上がる。
「俺もついてくよ。」
「大丈夫。コンビニ近いし。ゆっくり食べてて。」
「奈月ちゃん一人でいけまちゅか~」
「千里あとで覚えときなよ」
正面に座っていた千里にデコピンをしてから、コンビニへと歩き出した私。あとでって言ったのに~!と後ろから千里の叫び声が聞こえる。・・・まあ気にしない気にしない。
道なりに歩きはじめれば、コンビニを少し先に発見することが出来た。早く目的のものを買って皆の下へ戻ろう、と少し歩く速度を速めた、のだが。
「わっ!」
足元にあった段差の存在を忘れ、バランスを崩す。世界がスローモーションになったように感じて、わたし転ぶんだ、なんて冷静に思った。
「っと!」
しかし予想していた衝撃は襲ってこなかった。誰かが前から私の体を支えてくれたのだ。
「何やってんの。大丈夫?」
呆れた声で私の体を起こしてくれたその人は、少し長めの前髪をかき上げる。
「・・・ありがとう。惚れそう。」
「思う存分惚れなさい。」
「でもこういうのってさ。知らないイケメンが支えてくれるのが王道じゃない?」
「何あんたそんなに転びたかったのいいよ私が転ばしてあげ」
「嘘ですごめんなさい」
私の言葉にハハッ、と乾いた声で笑った彼女。千里さん怖いです、目が笑ってないです。どうやら飲み物が終わってしまったらしく、追加で買い物を頼まれたようだ。
「いい感じに暗くなってきたね。」
「ね。でももうこんな時間なんだね。」
「そう考えると寂しくなるな~」
そんなことを話しながらコンビニへの道を歩く。
「ねえ奈月。」
「なにー?」
「・・・やっぱなんでもない。」
「え、なにそれ?」
「気にしないで。」
急に名前を呼ばれて横を向いたけど、辺りが暗くなってきていて千里の表情は見えなかった。千里は少し躊躇ったように言葉を溜めた後、なんでもないと結局口を噤む。
何それ気になる!と千里をつつけば、何でもないってば馬鹿、と軽く背中を叩かれた。
「要くんとやっぱラブラブだなって思っただけ。」
「だーかーらー。要とはそういうのじゃないってば!」
「どうだか~」
今度はニヤニヤしながら千里が私をつつく。話しながら歩けばコンビニはすぐで、買い物を終え皆の下へとジュースを抱えて2人で歩いた。
「あ、そういえばさ。要くん大丈夫だった?」
「え、何が?」
「なにも聞いてない?」
少し眉を下げてそう聞かれるけど、思い当たる節が全くない。聞いてないよ、と答えれば千里は首を傾げる。
「なんか今日のこと最初に誘った時さ、すっっごい微妙な顔してて。」
「そうなの?」
「うん。海とか嫌いなのかなあって思うくらい渋ってたよ。」
「えー、そんな話聞いた事無いけどなあ。」
要の嫌いなものは勉強くらいだ、と思っていたけど違ったのだろうか。こんな事言うのもあれだけど、と千里が声を小さくする。
「ここの海なんかいわく付きなんじゃないかって不安になって調べちゃったもん。」
「なにそれ怖い。やめてよ。」
「私だって怖いわ。まあ結局何も出てこなかったけどねえ。でもそのくらい不安そうな顔してたよ、なんか。」
要の不安そうな顔があまり想像出来なくて、へえ、と浮ついた相槌を打ってしまった。私の前ではそんな素振り見せなかったし、何より今日は一日とても楽しそうだった。千里もそう思っていたのだろう、それ以上その話が続くことはなく、コンビニで買った炭酸を開けて2人で飲みながら歩いた。
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