第13話 背乗り

その場にいる全員、あきれ返って言葉も出ない様子。


話が先に進まないので、聞いてみる。


「梶山さん、他にもお話があるようでしたら進めてもらえますか。僕に関係する事って、何ですかね?」


頷いた梶山さんが、違う封筒を鞄から取り出しながら、父に尋ねた。


「奥様の旧姓は、金ヶ崎で生年月日は19☓☓年4月2日、本籍は北海道◯◯川市で間違いございませんが?」


「そうだ、籍を入れる時に確認している。」


「こちらをご覧ください。『本物の』金ヶ崎亮子さんです。」


見せられた写真の母娘は、義理母娘とは似ても似つかない姿だった。


「………………………………本物とは?」


「『背乗り』ですね。本物の金ヶ崎亮子さん母娘は、二年前に行方不明になっています。」


「『はいのり』、ですか?何ですかそれ。」


「端的に言って犯罪者や外国の工作員が、偽の身分を得るために身寄りのない人の身分を乗っ取ることですね。」


「………………………………その、乗っ取られた人の『身分』ってどうなるのですか?」


なんとなく、予想できたけど、効いてみた。


「両者合意の上の時は、入れ替わった新しい身分でどこかで暮らしているでしょう。」


て事は、合意では無い時は…………………


「………………………………では、あの母娘は何者なんですかね?」


「それはこちらを。」


封筒から、2枚プリントを出して皆で見えるようにテーブルに並べて、


「手配書です。『金咲羅』、保険金殺人で指名手配されてます。こちらは『金園羅』、強盗殺人で同じく指名手配されてます。それぞれ名前は当時の『偽名』ですけどね。あり得ない名前ですから。」


「………………………………指名手配という事は、義娘は未成年では無いと?」


父が渋い顔を更に歪ませて、尋ねた。


「そうです、当時20歳過ぎてます。」


………………………………僕らは、殺人犯で詐欺師の母娘と、何ヶ月も同じ屋根の下で暮らしてたのか。


「梶山さん、僕らはどうすれば良いと思いますか?」


「お父様と離婚させるのを最優先で。今通報してしまうと、『当事者』がいなくなってしまうので離婚裁判が必要になりますから。」


「………………………………その『当事者』って、『本物の金ヶ崎母娘』の事って認識で合ってますか?」


「…………………………………そうです。」


あ〜、梶山さんも、『本物の金ヶ崎母娘』は、もう生きてはいないと思ってるんですね。

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