第11話 話し合い
弁護士の梶山さんに電話で呼び出された父は、恐らく最初の連絡が柚香さんからだったので、正直舐めてたんだろうな。
政さんの運転で梶山弁護士のお迎えで連れてこられた、父親。
話し合いに用意されたのは、某駅前のシティホテルの商談用のお部屋。
なんと、柚香さんの祖父様が運営している施設だそうで。
柚香さん、ホントに、お嬢様だった?
かなりビビった様子で部屋に入ってきた父は、これ以上ないくらい落ち着きが無かった。
「まず、最初にお断りしておきます。」
梶山弁護士の発言から始まった『話し合い』。
父と僕たち三人の、計四人が対面で掛けて余裕のあるソファーと、真ん中にある大き目なテーブル。
父の対面には、梶山弁護士。
僕は、梶山さんに問われた時だけ話すように念押しされたから、柚香さんと一緒に右端のソファーに浅く腰掛けて小さくなっていた。
「これからの話は、全て録音します。また、発言内容によって違法行為が確認された場合には、この場で関係当局に連絡させていただきます。」
お〜、ビビってる。ホント、小心者なんだからな。
「阿賀先涼さんの一人暮らしの経緯と生活状況を教えていただきたいのてすか、お答えいたたけますか?」
「………………………………答える必要性を、認めない。家族間の問題です。」
あ〜あ、声が震えてるし。ホント、情けない。
「貴方には、涼さんを扶養する義務があるのは理解していらっしゃいますか?」
「………………………………何の主旨で質問されているのか、わからないんだが。当然の事だろう?」
「ならば、涼さんの口座に生活費が振り込まれていないのは何故でしょうか?」
梶山さんが質問するたびに、かなり間が空いてから答えようとするビビリ小心者の情けない父親。
「………………………………いや、十分な金額を振込んでいるはずだが。」
「その振込の手配はどなたがしていますか?」
「………………………………妻に、任せている。」
「涼さんが一人暮らしを始めてから、一度も支払われていませんよ?そのせいで、涼さんがどれだけ苦労されたか!久しぶりにご覧になってお解りになりませんか?保証人がいないのでアルバイトも出来ないせいで、満足に食事も取れずにかなり痩せられてますが気が付かれませんでしたか?公共料金すら支払えずに、今はガスが止められて数日後には電気が止められる状況になっています。明らかに養育を放棄して扶養義務に反していますよね。」
チョット待って、痩せたのは食生活が改善されたからなんですけど!ガスが止められたのは、その通りですけど。
答えられずに無言で俯く父に対して梶山さんは、
「では、涼さんが引っ越された当日の深夜、合鍵を持った侵入者に襲われた事は、ご存知ですか?」
……………………梶山さん、未遂だった事は伏せるんですか?
「…………………………いや、初耳だ。」
あくまでも無関係を貫くつもりなのか、本当に知らないのか、どっちだろうね?
「では、その犯人が奥様が通い詰めているホストクラブの従業員だったことは?」
「………………………………言ってる意味が、わからないんだが?」
お〜、かなり動揺してるし。
「奥様に、家族会員のクレジットカードをお渡ししてますね。使用状況は確認されてますか?」
「………………………………いや、家計は全て妻に任せてある。」
「今すぐに確認して利用停止することをお勧めします。」
促されてからスマホを操作して、画面をしばらくスクロールしていた父は、唸り声を上げなが何度かタップした後に、叫んだ。
「何故、妻の行動を掴んでいたんだ!」
「お答えできませんが、合法的に調べる方法はいくらでもありますよ。銀行口座の残高も確認することをお勧めします。」
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