第5話 お引越し
部屋へ戻りながら、親友の智を呼び出すためにライン通話を立ち上げる。
『涼か、どうした?』
2コールですぐに繋がって、問われた。
チャット抜きでいきなり通話するのは初めてだったからな。
「ああ、頼みがあってな。今日中に引っ越したいんだ。手を貸してくれないか?」
『………………………………わかった。兄貴を連れてすぐ行くから待っててくれ。』
智の長兄は運送業を自営しているから、あわよくば手伝ってもらおうとは思っていたが、こんな時間にいきなり用件だけを伝えたのにも関わらず一言も問わずに来てくれるとはさすが親友と見込んだだけははあるな。
通話を切ってから貴重品だけを纏めていると、玄関が騒がしくなった。
「何なの!あなた達は?何も頼んで…」
継母の悲鳴に似た叫び声が聞こえたと思ったら、智を先頭にガタイの良い男達四名が階段を上ってきた。
「よっ、涼?手っ取り早く片付けようぜ!全部運んで良いんだよな?」
「ああ、頼むぞ。話が早くて助かるな。兼兄さん、有難うございます。お願いします。」
「おうっ、涼の頼みなら何だってすぐに聞いてやるぜ。任せとけ!」
用意されてきた段ボール箱と毛布に梱包された荷物はあっという間にトラックに運び込まれて、部屋は空っぽになった。
照明器具も、祖母に選んでもらった思い出の品だから外して積み込んでもらった。
最後に、亡くなった母の部屋に寄って、母と僕が二人で写っている写真何枚かと、祖母と母の形見の宝石箱とアンティーク品と金貨銀貨のコレクションを全部纏めてバッグに入れて階段を下りた。
残しておくと、継母に『処分』されかねないと思ったから。
幸い、兼兄さん達を恐れたのか運び出す間は父も継母も二階には上がってこなかったからゆっくりと選ぶことができた。
ホント、小心者のクセに、よくも僕を殴ったり睨みつけたり出来るもんだな?
「おいっ、何処へ行くんだ!」
出て行けと言ったのは、あなたですよね?
「……………………余分なものは運んで無いでしょうね!」
喚きながら睨みつける継母を無視して、父にも返事をせずに兼兄さんに招かれた箱バンの助手席に乗り込んで、与えられたマンションに向かった。
とは言っても元は母の名義で、相続したのは僕なんだけどな。
この家も、実は僕の名義だし。
父は、入婿だったからね。
父が相続したのは、現金の一部だけだったしね。
「ところで、何があったんだ?」
後部座席の智から、興味津々といった勢いで尋ねられたが、
「あ〜、俺にもまだ、イマイチ状況が掴めてないんだ。少し整理してから話すよ。今言えるのは、冤罪で追い出されたって事ぐらいだけだな。」
「ん〜、そうか、話せるようになったら教えてくれよ?」
「それで頼むわ、兼兄さん、駅前のМシリーズマンションに向かって下さい。あと、引っ越し代は少し待って頂けますか?」
「要らんよ!あの様子だと訳ありなんだろう?他にもなにか有ったら、遠慮なく言ってくれていいからな!後で要らなくなった家電持ってってやるから。冷蔵庫と洗濯機はすぐに要るだろうからな。」
ありがたさに涙が溢れそうになるのを堪えるのが大変だった。
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