第41話 淡々としてるけど、少しは私のこと――

 人間界へ帰ることになるかもしれないと分かっても、私の日常変わらない。

 神様と会って話をするまで答えは出ないし、変に気を遣われるのも嫌だから、私は意識的にいつも通りの日々を送るようにしていた。

 ライトとキールもそれを感じているのか、あの日以降は普段通りに接してくれる。

 ――でも、時は止まってくれなかった。


「ヒマリ、神様にヒマリのこと話したよ」

「そ、そう。怒られなかった? 大丈夫?」

「うん、ヒマリに力を与えた神様は見つかってよかったって大泣きしてたけど」


 よ、よかった……。

 そうよね、神様だもんね。

 私はちゃんと元気でここにいるわけだし、そんなひどいことしないよね。


「それでヒマリを人間界へ帰す件だけど。どういう状態になってるか分からないと答えを出せないから、一度連れてきてほしいって言われた」

「分かった。私神様に会うときの礼儀作法とか全然知らないけど大丈夫?」

「ああ、そういうのは大丈夫。むしろフレンドリーすぎてびっくりするかも。オレは正直、今でもけっこう戸惑うよ……」


 神様そんな感じなの!?

 なんかもっと厳かなの想像してたわ!


「それで、いつ行けばいいの?」

「いつでもいいって言ってたけど、ちょっと今オレの仕事が立て込んでて……。一週間後でもいいかな」

「私はいつでも。一週間後ね、了解!」


 一週間――か。長いような短いような。

 園芸スペースの野菜、収穫までやりたかったな……。


「ここで働いた分のお給料だけど、人間界の――日本の円換算でいいよね?」

「そんなことできるの!?」

「うん。まあ正直、人間が動かしてるシステムをいじるくらい造作もないからね」


 いや、それはアウトでは!? 大丈夫!?

 私、捕まったりしないよね……!?

 でもまあ、たしかにお金がないとすごく困る。

 多分会社はクビだろうし、頼れる人もいないし、貯金も家賃や光熱費やサブスク代で消えてるだろうし。

 ここは素直に受け取っておくことにしよう。


「問題が起こらないって保証してくれるなら、それで……」

「大丈夫、そんな馬鹿なやり方はしないよ」


 ――ライトは本当、いつも通りね。

 まあ、間違って召喚しちゃった人間をやっと送り帰せるんだもんね。

 いろいろと大変な時期みたいだし、これまで匿って一緒にいてくれただけでも感謝しなきゃ。


 淡々と説明するライトに、何ともいえない寂しさを感じてしまった。


「ヒマリ? どうかした?」

「……ううん、何でもないわ。ただ、もうすぐここでの生活が終わるかもしれないんだなあって思っただけ」

「あはは、ちょっとは惜しいって思ってくれるの? そう思ってくれたなら、優しくした甲斐があったよ」


 割と物騒なことも言ってたけどね!?

 でもそうね、弱肉強食の世界で平和に暮らせたのは、ライトが私を「客人」として扱ってくれたからなのよね……。

 サヴァント扱いだったらきっと死んでたわ。


「ライトはどうなのよ?」

「オレ? さあ、どうだろうね? ……でも、楽しかったよ」

「もう、そこは嘘でも寂しいって言ってよ。でも楽しかったならよかったわ」

「……寂しいって言ったら、いてくれるの?」

「――えっ?」

「……なんてね。冗談だよ。ちゃんと帰すつもりでいるから安心して。ここはヒマリみたいな優しい人間がいるべきところじゃないからね」


 ライトはそう言って笑った。

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