第九章 天界にある神殿へ

第42話 転移魔法で天界の神殿へ

 一週間が経つのは思った以上に早く、あっという間に天界へ行く日になった。


「じゃあヒマリ、いくよ。転移酔い用のお菓子は持った?」

「うん。それじゃあキール、行ってくるわね」

「……うん。いってらっしゃい。今回は戻ってくるんだよな?」

「もちろん。状態を見てもらうだけよ」


 そこまで話したところで、ライトが転移魔法を発動する。

 このぐにゃぐにゃする感じ、気持ち悪い――。

 どうしてみんな平気なの!?

 これが、生まれながらに魔力を持つ者と人間との差ってこと!?


 転移した先は、真っ白な美しい建物の前だった。

 周囲は建物と同じ白い城壁に囲まれていて、美しい庭には噴水や川も――あるんだけど。


「……うええ。気持ち悪い……」


 くっ――こんな綺麗な場所を汚すわけにはいかないわ。

 このひどい転移酔いを早くどうにかしないと!


「ヒマリ大丈夫?」

「大丈夫――と言いたいところだけど、あんまり大丈夫ではないわね……」

「人間は本当に繊細なんだね。持ってきたクッキー、早く食べなよ」

「う、うん……」


 こんな気持ちが悪い状態でクッキーなんて、正直食べたくない……。

 どうしてクッキーにしたのよ私!

 でもまあ、あの抹茶っぽい味がする薬草も入れたから効果はあるはず!


 自分で作った薬草入りのクッキーに絶望しながらも、どうにかクッキーをかじり、咀嚼して飲み込んだ。

 すると私の体を強い光が包み込み、スゥッと楽になっていく。

 本当、我ながらすごい効果だわ。


「お待たせ。もう大丈夫」

「ん。じゃあ行くよ」


 神殿の入口へ向かうと、巨大な扉が勝手に開いていく。

 そして白い光が現れたかと思ったら、そこに真っ白なワンピースを身に纏った、黄緑色の長い髪を持った美しい女性が立っていた。


 ――すごい綺麗な人。いや、女神様?


 整った顔立ちのその女性は瞳も黄緑色で、力を感じるその瞳に吸い込まれそうになる。


「ライト、連れてきてくれてありがとう。待ってたわ朝宮陽葵ちゃん。初めまして、私が女神エリスです」

「は、初めまして。あの、あなたが聖女に選んでくれたっていう――」

「選んだのは私一人でってわけじゃないけど、聖女の力を授けるための儀式を行なったのは私よ」


 こんな綺麗な女神様が私を――。

 でも、どうして私だったんだろう?


「朝宮陽葵ちゃん、幼いころ神獣を助けたでしょ? あの子は聖女適性のある子にしか見えないし、心が綺麗な子にしか懐かないの」

「――え? し、神獣?」


 待って、全然身に覚えがないんですけど!?

 神獣……神獣を助けた……? ってあれ、もしかしてモフモフちゃんのこと!?


「ふふ、思い出したみたいね。その子よ。――とりあえず入って。細かいことは中で話しましょう。朝宮陽葵ちゃんの状態も見たいし」

「ひ、陽葵でいいですよ。長いし」

「――そう? じゃあ陽葵ちゃんって呼ぶわね♪ ライトもどうぞ」

「失礼します」


 神殿内へ招かれた私とライトは、談話室のような、美しいソファとテーブルが置かれた部屋へと通された。

 窓の外には、先ほど見た美しい景色が広がっている。

 しばらくすると、身長一メートルほどの天使と思われる女の子が飲み物とマフィンを運んできてくれた。可愛い!


「――いい香り!」

「オレアの実のハーブティーに蜂蜜を入れたものよ。陽葵ちゃん甘いの大丈夫?」

「大好きです! ライトも好きよね♪」

「……ま、まあ。はい。好きです」


 女神であるエリス様に出された以上認めるしかないと諦めたのか、ライトは渋々そう答えた。

 ハーブティーはシトラスのような清涼感のある味わいで、スゥッと体に染み渡る感覚が心地いい。

 マフィンも、ラズベリーのような実とホワイトチョコが入っていて、ふわっとしつつもしっとり感がありとても私好みだった。


「――おいしいっ!」

「気に入ってくれてよかった。あとでお土産用も渡すわね。神殿で働く天使ちゃんがお菓子作りにハマってて、たくさん作ってくれるの」


 エリス様は嬉しそうにそう話し、自身もマフィンを手に取った。

 天界ってこんな感じなのね。癒される……!

 ライトが拷問されるかもなんていうから、私の思い描く天界と違いすぎて内心ドキドキだったわよ!

 私のイメージに近い感じでよかった……。


「――陽葵ちゃん、まずは謝らせて。私の聖女選定とライトの魔獣召喚の件で混乱させることになってしまって、本当にごめんなさい」

「ごめんなさい。すべてはオレの注意不足が招いた結果です……」


 ひと段落したところで、エリス様とライトが謝罪してくれた。

 たしかに最初は混乱したし戸惑ったけど、最近は本当に楽しく過ごしてたし、なんだか逆に申し訳なくなってくるわね……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る