第39話 聖女カミングアウト

 ――どうしよう?

 言ったら殺される、なんてことないよね?

 さっきキールへの仕打ちを見てしまっただけに、怖い。


「黙ってるってことは、そういうことだと思っていい?」

「……もしそうならどうするつもり?」

「どうする? まずは神様の誰かに確認して、事実なら関係者に謝罪かな……。下手すれば、故意にやったと勘違いされてセシア様あたりに拷問される可能性もあるけど。それから今後について話し合い?」

「え? 待ってそういうことじゃなくて――え?」


 ライトいわく、いずれにせよ召喚時に集中が途切れたことが、私を選び取ってしまった大きな原因なのは間違いないらしい。

 ライトはそう説明すると乾いた声で笑い、「よりにもよって聖女になりたての人間を召喚しちゃうなんて」と落ち込んでうなだれてしまった。

 なんか思ってたのと違うし、私よりライトの方が危機的状況みたい。


「――というか、魔神と神様って敵同士じゃないの?」

「基本的にはそうだよ。でもそこに関してはちょっとまあ、いろいろあってね。個人的にはそこそこ付き合いがあるんだよ。だからこそ、こっそり情報収集してた可能性を疑われるかもしれなくて……そうなったときに違うって証拠が……」

「そう、なのね……」


 ――ここまで話してくれるなら、私も話していいよね。

 よく分からないけど、「基本的には」ってことはライトと神様はそこまで敵対してない、ってことなのかな……?


「――実はそうなの。黙っててごめんなさい。聖女と魔神って敵っぽい印象があるし、怖くて言えなくて……」

「まあそうだろうね。ヒマリの立場ならその判断は正しいと思うし、べつにそれを咎めるつもりはないよ」

「前に、ステータス画面が見られるって話したでしょ? そこの属性欄、本当は『魔神ライトの召喚獣/選ばれし聖女』ってなってるの」


 私はライトに、【癒しの料理】のほかに【聖なる光】というスキルも持っていて、アイテムボックスも使えることを白状した。


「――なるほど。あくまで憶測だけど、ダークに姿が見えなかったのは【聖なる光】の効果かもね。教えてくれてありがとう」

「これですべてよ。睡眠魔法は本当に使えないし心当たりがないの」

「――うん。考えてみたら、キルスのシステムをコピーしたことでオレの力がけた違いに跳ね上がってるはずだから、その分がヒマリの力にも影響を与えたのかも」


 ほうほうなるほど?

 じゃあなんで私さっき責められたのかな?

 割と怖かったんですけど!


「ふーん? ねえライト、何か言うことあるんじゃない?」

「え? う……ご、ごめん。ヒマリの力のことがずっと気になってたから……。召喚の件もあるし、怒ってるなら気が済むまで好きにしていいよ」

「好きに?」

「うーん、殴るとか蹴るとか? 道具も使うなら貸さないことはない。加減が分かってない相手にやられるのは恐怖でしかないけど……」


 いやいや、子ども相手にそんなことしたくないわよ!


「でもヒマリ弱そうだし、道具使わないとオレよりそっちにダメージがいきそう」

「ちょっと、本当にひっぱたくわよ!?」

「? うん?」


 くっ――!

 そこまで言うなら一回くらいって思ったけど、人――じゃないけど誰かを、しかもこんな子どもを叩いたことなんてないし、いざとなると手が動かない……。


「――っふ、あははっ。もしかしてためらってる? ヒマリは本当、魔族じゃなくてよかったね」

「う、うるさいわねっ! そんなこと言う子はこうよっ!」


 そう言って頬を軽く抓ろうとしたものの、失敗して結局むにむにして終わった。

 やっぱり無理! 柔らかい!!!


「? それ何したつもりなの?」

「な、何でもないわよっ! もういいわよ。許してあげる!」

「ヒマリは甘いなあ。本当に、手放したくなくなっちゃうよ……」

「どうせ帰れないんだから、手放すも何もないでしょ?」

「――そう思ってたんだけどね。でもヒマリが本当に聖女なら、神様の力を借りれば帰せるんじゃないかな」


 ――――え?

 私、元の世界に――日本に帰れるってこと?

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