第38話 手違い召喚された本当の理由
「――ライト、入っていい?」
「うん。入って」
三階にあるライトの執務室へ行くと、ソファに座るよう促された。
なんだろう?
もしかして、ライトにコピーされた何かのことを教えてくれたり――はないか。私には知らない状態でいてほしいらしいしね……。
「キールはどうした? 無事?」
「料理を食べさせて治したわよ。気にするなら自分で治せばいいのに。ライトなら魔法で一瞬なんでしょ?」
「まあヒマリが何も言わなかったら内臓の負傷は治したと思うけど、でも身分を考えればあれくらいは当然だし、むしろ手加減した方だよ。だからそれ以上は治さない」
鬼! 鬼畜魔神!
あれのどこに手加減があったのよ!?
「――それよりヒマリ、ココアに何したの?」
「え? マシュマロココアのこと? あれは炙ったマシュマロを――」
「そうじゃなくて! あれ、睡眠魔法か何か仕込んでたよね? 一応それなりに強いはずのオレの魔力解析をすり抜けるその力、いったい何なの?」
「なっ――だから私にそんな能力ないってば! 私に魔法は使えないの!」
毎度毎度、どうしてこうも変な疑いをかけられるかしらね。
こういうときのライト、眼光が鋭くなって怖いから本当にやめてほしい。
疲れてるだろうと思って純然たる厚意で作ってあげたのに!
「キルスが話しちゃったみたいだから言うけど、ちょっと事情があって、この一週間でキルスの体内システムをオレにコピーしてたんだ。下手すれば体がめちゃくちゃになって死ぬかもしれない大きな賭けだった。だから高熱も出て大変だった」
「……体内システムをコピーって何?」
「あー、まあ簡単に言うと、遺伝子操作? みたいな感じかな? 一応成功して定着したから帰ってきたわけだけど、それでも気を抜くと意識が途切れそうなくらい全身痛かったし、吐き気と眩暈もひどかったし、体も重かった」
帰ってきたとき、そんな状態だったの!?
疲れてる感じはしたけど、そこまでとは思ってなかったわ。
「い、今は? 今も本当はまだつらいの?」
「いや、今は何ともない。何ともないんだよ……。あのココアを飲んで、ひどい眠気に襲われて意識が途切れて、起きたら痛みも不調も全部なくなってた。たった数時間だよ? あれは絶対これまでの料理とは格が違った」
そ、そんなこと言われても……。
私は本当に特別なことは何もしてないし、睡眠魔法も使えないのよね。
「可能性があるとするなら、急激に回復に向かったことで体の緊張が解けたとか、一時的に体力が犠牲になったとか、そういうことじゃない? だって私、本当にそんな力は持ってないわよ」
「……そっか。あの、一つ聞いてもいい?」
「うん?」
「ヒマリって、もしかして聖女だったりする?」
え――!?
これまでまったく気づく気配なかったのに、どうしていきなり!?
「――ど、どうして?」
「ちょっと小耳に挟んだんだよ。オレも詳しいことは知らないんだけど、聖女の力を付与された人間が行方不明になってるらしい」
聖女が行方不明!?
でも、私にはライトに召喚されるまでそんな力なかったし、それは私ではないんじゃないかな……。
「実は、もし仮にそうなんだとしたら、すべての辻褄が合うんだよね……」
「え? どういうこと?」
ライトは私が召喚された際に使われた召喚魔法、それから召喚獣について説明してくれた。
召喚獣は、別世界に稀に存在する強い力を持つ個体を器として召喚し、それに自らの力を分け与えることで完成するらしい。
「だから本来、何の力もない人間が召喚されるのはどう考えてもおかしいんだよ。でも、もし仮に聖女選定の時期とかぶってしまったんだとしたら――」
「……つまり、聖女に選ばれて力を与えられた私が、その『別世界に稀に存在する強い力を持つ個体』扱いになって召喚されてしまったってこと?」
「うん。それなら、ヒマリが持ってる謎の力のことも、それに対して無自覚なことも頷ける。オレに解析できないのは不可解だけど、まあオレも聖女に関する情報は持ってないし、認知してない手法がある可能性も――」
これは――もう隠し通すの無理じゃない?
ライトのことだから、それなりに確証は得てるんだと思うし。
でも……私の持ってる力では、多分ライトに勝つことはできない。
こんな聖女的に敵の本拠地みたいな場所で、明かしていいのかな……。
「い、一応聞くけど、聖女を選んだのって誰なの?」
「さすがにそれは、神の誰か、くらいにしか知らないな……。魔神一族であるオレに明かすわけないよね……」
ですよねー!
そしてやっぱり敵ってことね!!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます