第八章 聖女カミングアウト
第37話 庭に生えた薬草の効果がすごい!
「この薬草、ちょっともらっていくよ?」
「え? うん。それはいいんだけど、キールを――」
「キールはまあ、修復不可能なほどの致命傷は与えてないし、ヒマリに任せるよ」
「そ、そんなっ――」
ライトは薬草を何株か引き抜き、キールを放置したままその場をあとにした。
キールは力尽きたのか、今や完全に気を失っている。
「ど、どうしよう? と、とにかく何か作って食べさせ――られるかな……。ううん、そんなこと今考えてもどうしようもないわね。やるしかない!」
魔法が使えない私にできることは、【癒しの料理】で回復効果のある料理を作ってキールに食べさせることだけ。
「――薬草、使えるか分からないけど一応少し持っていこう」
私はキールに「待っててね」と声をかけ、キッチンへと急ぐ。
――何を作るのがいいだろう?
あんな弱った状態じゃ、飲み物も危険かもしれないし……。
なんかこう、負担がなくて食べやすい感じの――。
「――あ、これいいんじゃない? アイスクリーム!」
冷凍庫を漁っていたら、バニラアイスが発見された。
アイスなら一気に喉へ流れてむせる危険も少ないだろうし、口の中で溶けるし、程よく粘度があってちょうどいいかも!
それなら、薬草はすりつぶしてソースにしてみよう。
すり鉢に洗った薬草を入れてペースト状になるまですりつぶし、そこに砂糖を加えて温めたミルクを少しずつ加えていく。
全体が均一にとろりとしたら完成だ。
「――うん、おいしい! ちょっとクセがあるけど抹茶に近い味ね。これならバニラアイスとも合うはず!」
器にバニラアイスを入れて、氷で冷やした薬草ソースをかけた。
「――ヒマリ、ちょっといい?」
「ごめんあとにしてくれる? アイスクリームが溶けちゃう……」
「……まあいいや。じゃあ部屋で待ってる」
私は再びエレベーターで五階のへ上がり、待たせているキールのもとへ向かった。
キールは変わらず気絶している。
「き、キール、お願い。少しでいいから目を覚まして……」
「――ん、――っぐ……ぁ……」
声を掛けると比較的すぐに意識を取り戻したが、痛みがひどいようで悶えている。
この火傷だし、内臓も負傷してそうだし、そりゃそうよね……。
「これ食べて。ひどい状態だから完治は無理かもしれないけど、きっと少しは楽になるはずよ」
「ん……う、ん……」
キールは意識が朦朧としているようだったが、どうにか僅かに口を開いてくれた。
私はそこに、アイスと薬草ソースをスプーンですくって滑り込ませる。
すると、数秒も経たないうちにキールの体が強く光り始めた。
いつもよりだいぶ早いし、なんか光が強い!
「多分効いてるはずだから、もうちょっと頑張って食べて」
「ん――」
少しずつじわじわと、でも見て分かる速度で火傷が修復されていく。
しばらく食べさせていると、だいぶよくなったのか、キールは起き上がって自分で食べ始めた。そして――。
「……す、すげえ。痛くない。治ってる! でもこんな勝手なことしたら、おまえがライトに怒られるんじゃ――」
「ヒマリに任せるって言われてるから大丈夫よ。治ってよかった……」
驚きながら自分の体を確認しているキールを、私は思わず抱きしめた。
「うわっ!? ひ、ヒマリ!?」
「死ななくてよかった……。もう、なんであんな馬鹿なこと言うの!?」
「はは。あいつの気まずそうな顔見てたらつい……。にしても、おまえの回復料理なんかレベルアップしてない?」
「さっきの薬草を使ってみたの。あの薬草、すごいわね?」
「いや、多分すごいのは薬草じゃ――」
回復の早さも効果も、数倍は高まっていた気がする。
せっかくだし、この薬草も育つならもっと本格的に植えようかしら?
ライトに園芸スペースを増やしていいか聞いてみようっと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます