第36話 もう本当、キール馬鹿じゃないの!?
「――マリ! ヒマリ! キールも起きろ!」
「――んう? あれ、ライト起きたの?」
気がつくと、私もキールも庭に寝転がって眠っていた。
上体を起こしてライトの方を見ると、呆れた顔でこちらを見ている。
「おまえらこんなところで寝てたら風邪ひくよ?」
「んん……あれ、ここは? あ、ライト起きたのか。おはよう」
「――おはよ」
ライトはキールの返しに一応そう答えたものの、何とも言えない、若干気まずそうな表情をしている。
――どうしたんだろう?
そう思ってキールの方を見ると、キールはその状況から何か察したようでにんまりと笑っていた。
「ライトもあんな無防備に寝るんだな。初めて見たよ」
「い、いや、違――! あれは――っ!」
「ヒマリのマシュマロココアもすごいおいしそうに飲んでたよな。おまえ本当は甘いの大好きだもんな~。毎朝ミルクと砂糖たっぷりのコーヒー飲んでるの知ってるぞ」
「……おまえいい加減に」
「いやあ、普段絶対に隙を見せない相手の健やかな寝顔を見ると、ちょっと勝った気にな――ぐあ!?」
勝ち誇ったように喋っていたキールの体に、深い紫色に光る鎖状の何かが巻きつき、宙へと引き上げられる。
その鎖状の何かはギリギリときつくキールを締めつけていて、キールは苦痛と恐怖に顔を歪めながら悲痛な声を漏らした。
ライトは殺気すら感じるオーラを滲ませて、手をキールの方へかざしている。
「――何? 誰が勝ったって?」
「い、いや待って! 冗談! 冗談です本当にごめんなさい許してくださ――あああああああああああああっ――」
引きつる声で涙ながらに懇願するも、鎖に目で見て分かるくらいの強烈な電気を流され、キールは体をのけぞらせながら声にならない悲鳴をあげる。
いやもう本当、キール馬鹿じゃないの!?
なんか、だんだん二人の本当の関係性が分かってきた気がする……。
で、でも、だからってこれはさすがに――。
「ライト、もうやめて、キールが死んじゃう!」
「これくらいじゃ死なないよ。――ほらキール、勝てるもんなら勝ってみなよ」
「ぐ……ああああああ……っ! 違っ――ごめ……なさ……いああああああああああああああ! い……痛……あ……」
「――ふん。まあ今日はこれくらいで許してやるよ。ヒマリもいるしね」
ライトが鎖から解放すると、キールはそのまま落下して庭に叩きつけられた。
全身にひどい火傷を負い、ぐったりと苦しそうに息を荒げ呻き声をあげている。
内臓をやられているのか、弱々しく咳込み血も吐いている。顔色も悪い。
そしてしばらくすると、ふっと意識を失ってしまった。
これくらいってレベルじゃないんですけど!?
「たしかに今のはキールが悪いけど、でもこれはさすがにあんまりじゃない!? 死んだらどうするのよ!」
「べつに殺したいわけじゃないし、さすがにその辺は見極めてるよ。それに、キールには死ねな――死なないように魔法をかけてあるから」
今、死ねないようにって言いかけたよね!?
この悪魔! ――って魔神なんだったああああああ!
「三十分くらいしたら好きにしていいよ」
「は? ――ま、まさかとは思うけど、このまま三十分放置するつもり!?」
「そうだけど。すぐ直したらお仕置きにならないだろ」
「いや充分なってるでしょ!? むしろその域を完全に超えてるわよ!」
「えー。ヒマリは甘いなあ」
キールは激痛で気絶と覚醒を繰り返しているのか、時折苦しそうな声を漏らしながらもがいている。
――にしても本当、キールもなんで余計なこと言っちゃうかなあ!?
さっきの反応とこれまでに聞いた話から考えると、多分こういうの初めてじゃないよね!?
「――そういえば、園芸エリア早速使ってるんだね。もう芽が出てる」
「え!? あ、そ、そうね。そうなのよ」
そんな、キールのこと見えてないみたいな何事もなかったようなテンションで言われても!
たしかにライトに見せたいとは思ってたけど、でも今はそれどころじゃないわ!
「ね、ねえちょっと、先にキールを――」
「――? あれ、こっちのって薬草? いやでもそんなはず――。ヒマリが植えたの?」
「え? ライトが植えたんじゃないの?」
「こんなまばらに変な植え方しないよ。それにここ、これを育てられるほどの環境じゃないはずなんだけど……」
ライトいわく、この薬草が育つ環境はとても限られているらしい。
本来なら、こんな人工的に作った庭に自生するなんてあり得ない、と驚いていた。
「じゃあ似てるだけで違うんじゃない?」
「――いや、魔法で鑑定してみたけど、やっぱり薬草だよこれ。ヒマリ、本当に何もしてないんだよね?」
「してないわよ。私はただ、キールと一緒に園芸エリアを整えて種を植えただけ。あとは雑草を抜いて水をあげるくらいしかしてないわ」
「……そっか。うーん」
薬草も大事だけど! 大事なことだけど!
でも今はキールをどうにかしてあげて!!!
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