第34話 疲れにはマシュマロ入りホットココア!
翌日の昼頃、ライトが帰ってきた。
「ただいま。何も連絡せず遅くなってごめん。ちょっと急な用事が――」
「――ライト! おかえり!」
「おかえりなさい! 体はもう大丈夫なの?」
私がそう聞くと、ライトは「えっ」と小さく声を漏らし、チラッとキールへ鋭い視線を向ける。
なるほどね。キールから聞き出さなくてよかったわ!
「おおおおオレじゃないぞ! 昨日キルスがおまえの様子を伝えに来て、そのときに――」
「キルスが? ああー、なるほど……。まあキルスにとっては、ヒマリなんて眼中にないだろうからね。多分奴隷の類ぐらいに思ったんだろうな」
ライトはしまった、というように額に手をやる。
奴隷って! あのキルスって男、私のことそんなふうに思ってたの!? ひどい!
「――そういえば、キルスには私の姿が普通に見えたみたいなの」
「……そう、なんだ。純粋な魔神一族にだけ見えない仕様なのかな。それかダークにだけ見えない可能性もあるけど……」
「え? キルスは魔神一族じゃないの?」
「キルスは……ちょっと特殊な例で、一族と血の繋がりはないんだよ。オレも悪魔とのハーフだから、そういうことなのかなって思って」
な、なるほど……。
でも力を持ってるはずの魔神一族にだけ見えないってどういうこと?
べつに困ることはないし、むしろ助かってるっぽいけど。
「――そうなのね。それよりライトは、まずゆっくり休んだ方がいいわね」
「うーん、そうしたいけど仕事が……」
「よく分からないけど、何かをコピーして熱が出てたんでしょ? 無理したら倒れるわよ! ――そうだ! ちょっと待ってて!」
「……うん? じゃあリビングのソファにいるよ」
こんなときこそ、【癒しの料理】の出番じゃない!?
今は疲れてるだろうし、甘いドリンク系がいいかな……。
私はキッチンへ向かい、早速ドリンク作りを開始した。
「ココアは――あった! あとはこれ♪」
まずは小鍋でミルクを温め、たっぷりのココアと砂糖を入れたカップへ温めたミルクを少しだけ加えてしっかりと練る。
粉が溶けてなめらかになったら残りのミルクを注ぎ入れ、均一になよう混ぜれば完成だ。
今回はおまけとして、そこに炙ったマシュマロを三つ浮かべた。
あの子甘党だしきっと喜ぶわ! ふふっ♪
「――お待たせ。はいこれどうぞ」
「わ……! あ、ありがとう……」
香ばしいマシュマロが浮かぶココアを見て、ライトは嬉しそうに目を輝かせる。
それを見たキールは一瞬驚きを見せたが、何も言わず、静かにそっと微笑んだ。
「――おいしい。チョコレートみたいだね」
「濃い目に作ってみたの。気に入ってくれたならよかったわ」
添えていたスプーンで溶けかけのマシュマロをすくって口へ運び、しばらくして、ふうぅぅっと深呼吸をするかのように息を吐いた。
きっとライトも、相当気持ちが張りつめていたんだろうな……。
そしてココアを飲み終えるくらいのタイミングで、ライトの体が光に包まれ始めた。いつもの回復タイムだ。
ライトはカップをソファ前のテーブルへ置くと、「あれ……」と口にしてそのまま半ば倒れるように横になり、すやすやと眠ってしまった。
よっぽど疲れてたのね。
「――すげえ。ライトが人前でこんなぐっすり寝るなんて、オレ初めて見た」
「え、そうなの?」
「うん。こいつ、ずっといつ狙われるか分からない生活送ってたから……」
いつ狙われるか分からない生活――か。
弱肉強食の世界って言ってたし、上に立つ者の宿命なのかしら……。
「――そうなのね。しばらくこのまま寝かせておきましょう。毛布持ってくるわ」
ライトの部屋は勝手に入れないから、とりあえず私のをかぶせておけばいいか。
私は持ってきた毛布をライトにそっとかぶせ、キールとともにその場を離れた。
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