第33話 なんか重ね重ねごめんなさい!

「ヒマリ、紹介するよ。元魔神で魔神補佐役のキルスだよ」


 元魔神で魔神補佐役――あれ?

 この間の――たしかダークとか言ったっけ? あの魔神には見えなかったのに。

 キルスには私が見えるのね?


「は、初めまして。朝宮日葵と申します。……あの、私のこと見えるんですね?」

「……? どういう意味だ?」

「えっと……前に私の姿が見えない方がいらっしゃったので」

「……少なくとも、俺には普通に見えてる」


 私の説明に、キルスは怪訝な顔をしている。

 まあたしかに、突然「私のこと見えるんですね?」なんて言われたら訝しむのも無理ないわよね。

 でも、あのときは本当に見えてなかったし、声すら認識されなかったから……。


「おまえ、ライトのサヴァントか?」

「いえ、召喚獣です」

「……は?」

「ライトに召喚された召喚獣です」


 私がそう返すと、キルスは「こいつ大丈夫か?」とでも言いたげな、迷惑そうな顔でチラッとキールの方を見た。

 なんか重ね重ねごめんなさい! でも本当なんです信じて!!!


「いや、本当に召喚獣なんだよ。ちょっとその……間違いがあって……」

「……そ、そうか。まあライトが認知してるならどうでもいいが。それよりキール、ライトへのコピーが完了したぞ」


 キルスの言葉に、キールはビクッと一気に緊張を高まらせてキルスの方を見た。

 ずっと気にしてるっぽかったし、心配なんだろうな。そりゃそうか。


「……そ、それで、ライトは今様子どんな感じ?」

「問題ない。一昨日の夜に目を覚まして、順調に回復に向かってる。今はまだ熱があって天境でセシアさんが様子を見てるが、明日には帰せるだろうとのことだ」

「……そっか。よかった……本当によかった……」


 キールは力が抜けたようにへたり込み、放心状態になってしまった。

 目には涙が溢れていて、キールはそれに気づいて慌ててぬぐう。


「よく分からないけど、ライトが無事ならよかったわ」

「……ただまあ、まだ本調子じゃないと思うから、無理しないよう労わってやってくれ。仕事も、数日は魔塔に通わなくて済むよう調整してある」

「うん。分かった」

「私も、できることはするようにします」


 状況は何一つ理解できてないけど!

 というか、ライトへのコピーが完了したって何!?


「――ん。じゃあ伝えたぞ。俺は仕事に戻る」

「うん。わざわざありがとな。キルスは? もう家に戻ってる?」

「ああ。でもその――なんだっけ、そいつがいるなら、おまえはこっちにいた方がいいんじゃないか? 一応、何かあればすぐ気づくようにしておく」

「ヒマリな。分かった、じゃあそうするよ」

「ああ。――ヒマリ、引き続きキールのことを頼む」

「え? いや、オレがヒマリを――っ!」


 キルスはキールの言葉を待たずに、転移魔法で消えてしまった。

 なんかキールを頼まれてしまったわ。

 キルスにとっても、やっぱりキールはそういう感じなのね。


「オレが世話する側なのにっ!」

「まあまあ、どっちでもいいじゃない。明日にはライトが帰ってくるんだし、お掃除頑張りましょう!」

「――むう。そうだな。よし、今日も働くぞー!」


 今日はどこを掃除しようかな?

 玄関回りとダイニングルームはいつも通りやるとして――。


「――決めたわ。今日は廊下を徹底的に掃除するわよ!」

「了解。窓も磨かないとな」


 私とキールは今日やることをあれこれ言い合いながら、ランドリールームの掃除用具入れへと向かったのだった。

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