第31話 菜園作りとお好み焼き

 五階の庭にある園芸スペースは、少し土が固くなってはいたものの、少し耕したらあっという間にふかふかの土になった。


「キールは、こういうのやったことある?」

「いや、ないな……」

「そっか。実は私もあまりなくて、見よう見まねなのよね……」


 興味はあって、何度か本屋さんで園芸関係の本をチラ見したことはあるんだけど。

 でも興味を持った頃には親戚の家に居候中だったし、一人暮らししていた家はマンションだったから庭がなかった。

 ベランダも狭かったから、洗濯物を干すこととか考えたら使えなかったしね。

 だから実際には、小学校のときに授業の一環で少し経験したくらいだ。


「まあ命令されてる業務じゃないし、ライトにとってはここで野菜が採れようが採れなかろうが何も影響ないだろうから、土を散らかして庭をめちゃくちゃにしない限りは怒られないと思う」

「そうね、農家さんだって試行錯誤するんだから、素人が最初からうまくいかなくたって普通よね」


 私はキールと一緒に、先ほど受け取った種や苗を植えていった。

 ちなみに植えたのは、ロタス、トマト、なす、きゅうりと、先日買ってきたステーキ豆を一鞘拝借したものの計五種類。

 ステーキ豆はサイズがサイズなので、深めに穴を掘り、ある程度間を開けて沈めてみた。

 10000円分の種って思うと緊張するけど、でももし成功したら――ねえ?

 失敗したら謝ろう……。


「――こんなものかしらね! あとは水やりをすればOKかな?」

「うまくいきますように!」


 水やりを終えて、二人でうまく育つよう祈って、私たちは庭を後にした。

 シャワーで土を流して着替えたら、お昼ごはんにしよう。

 けっこう頑張ったからおなかがすいたわ……。


 お昼ごはんは、簡単なお好み焼きを作ることにした。

 材料は、小麦粉と卵、水、あとはキャベツとねぎ、チーズ、豚肉。


 小さめのフライパンで二枚作って、一枚ずつ食べる形がいいかな。

 その方がひっくり返しやすいし。


 キャベツを千切りに、ねぎを小口切りにして、小麦粉と卵と水を混ぜた生地に混ぜ込んでいく。もちろんチーズも!


「……それ、何作ってるんだ?」

「お好み焼きっていう料理よ。油をひいたフライパンにこの生地を広げて、豚肉を並べて焼くの」

「へえ? 見たことない料理」

「――そういえば、マヨネーズはあったけどソースってあるのかな」


 興味津々でフライパンを見つめるキールを横目に、冷蔵庫を確認しに行く。

 すると、ビンに入っている似た雰囲気の調味料が発見された。


「――これかな?」


 少し小皿に取って舐めてみると、甘さ控えめではあるが一応ソースだった。

 トマトの缶詰があるし、それと砂糖を少し足したらもっとおいしくなるかも!

 本当は麺つゆもあるといいんだけど、残念ながらなさそうね。


 私はトマト缶を開け、少量器に入れて、そこにソースを足して、きび砂糖に似た砂糖で味を調えることにした。


「――うん、おいしいっ♪ キールも味見する?」

「お、おう、ありがとう。――ん、うまっ!?」

「ふふ、よかった。――お好み焼き、そろそろ返すタイミングかな」


 キールは感心した様子で、私が調理する様子を眺めている。

 興味あるのかな?

 でも電子――じゃなかった、魔力レンジを爆発させたって言ってたし、あまり料理の経験が豊富な感じではなさそうよね。


「今日は私が作るけど、今度キールも一緒に作ってみる?」

「えっ!? あー、いや、オレはちょっと料理は……」

「そう? 無理して作ることはないと思うけど、ハマったら楽しいわよ」

「でもオレ、成功した試しがないんだけど……」

「そこはまあ、練習あるのみよ! ちゃんと教えるから大丈夫!」

「うーん。ま、まあ、ライトの許可が出たらやってみようかな……」


 ……なるほど。

 これはきっと、やらかしたのって魔力レンジの件だけじゃないわね!


 焼き終えたお好み焼きをお皿に載せ、キッチン内のテーブルへと運んで、先ほど作ったソースとマヨネーズをかけていく。

 飲み物は、濃い目に作った紅茶を炭酸水で割ったもの。

 甘みはつけず、氷を入れて冷たくした。


「今はライトもいないし、二人だけだからキッチンの簡易テーブルでいいわよね」

「うん。オレはどこでも」

「それじゃあ――いただきます♪」

「……本当に毎回言うんだな。いただきます」


 ソースとマヨネーズをたっぷりかけたお好み焼きから、食欲を刺激する特有のスパイシーさとフルーティーさを併せ持つ香りが漂ってくる。

 口へ運ぶと、思わず「これこれ!」と言いたくなるような、食べ慣れたあのガツンとくる味が一気に押し寄せた。

 ああ、働いた体に染み渡るわ。豚肉もこんがり焼けてていい感じね。幸せ~。


「……うまっ!? え、何これ? すべてが新しくて何て言ったらいいか分かんないけど、とにかくうまい!」


 キールも気に入ったようで、夢中になって食べてくれた。よかった!


「豪華な食事もいいけど、たまに無性にこういうのが食べたくなるのよね。特に疲れてるときとか。ソースの味って強いわよね~♪」


 そして食べ始めてしばらくすると、安定の回復タイムがやってきた。

 おいしいものを食べながら体力も回復できるなんて、本当に最高の力だわ!

 どういう仕組みかまったく分からないけど、くれた人――いや、神様かな? とにかくありがとう!!!

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