第30話 キールの謝罪
翌日、キールは昼すぎくらいにやってきた。
午前中は、一緒に暮らしているキルスの仕事を手伝っていたらしい。
「遅くなってごめん!」
「ううん、ライトから聞いてたから。そういえばキルスとは仲直りしたの?」
「ああ、うん。もう大丈夫」
「そっか、ならよかったわ。今日はあの園芸スペースを開拓するわよ! ライトに必要なものを頼んでもらったから、もうすぐ届くはず!」
昼過ぎには届くって言ってたからもうすぐかな。
そんなことを考えていると、玄関のベルが鳴らされた。
「オレが出るよ。ヒマリは一応、どこか見えない位置にいて」
「えっ? わ、分かったわ」
キールは玄関を開け、荷物の受け取り対応をしてくれた。
これって、何かよからぬことが起こらないように守ってくれたってことよね?
「ありがとう。優しいわね。キールだって強くはないんでしょ? 私がここにいること、キールには何の責任もないのに」
「えっ……いや……その……まあ一応……」
私がお礼を伝えると、キールは急にぎこちなく視線を泳がせ始めた。
なんだろう? ライトに命じられただけだから気まずい、とか?
変なこと言っちゃったかな……。
――なんて思っていたその時、突然、キールが私の足下に土下座した。
「ごめんなさい!」
「えっ!? え、な、何? どうしたの?」
「実は、ヒマリが召喚されたの、多分オレのせいなんだ……」
――え? どういうこと?
あれはライトのミスなんじゃないの?
「あとからライトに言われて知ったんだけど、実はあの日、ライトの家で魔力レンジを爆発させて……そのタイミングと召喚のタイミングがかぶったらしくて……」
「……でも、キッチンは二階よね? 地下にも被害が及ぶような爆発だったの? ここの召喚されたとき、特にそんな感じはなかったけど……」
「ライトが発動中だった召喚魔法はすごく強力で複雑なやつだったから、爆発で集中力が途切れたときに魔法陣の回路がどこかがバグったんじゃないかって……」
魔法陣の回路がどこかがバグった。
なるほどそういうことが起こるのね……?
「――キール、顔を上げて。というか立って」
「……え、う……はい……。何するの……」
「え? ――ああ、何もしないし怒ってないから大丈夫。だいたい私、ライトみたいに突然武器なんて出せないから!」
まあアイテムボックスがあるし、持ってればできるんだろうけど。
でも持ってないし、持つ予定もない。
「な、何も……? なんで? だってヒマリは、オレのせいでこんなところに……」
「もう、そんな顔しないの。しょうがないわね……」
私はキールを抱きしめ、そっと背中をぽんぽんしてみた。
キールは私に抱きつかれたことにびっくりしたのか、状況が分かってないのか、体をこわばらせて無言のまま固まっている。
「私、ここでの生活けっこう気に入ってるの。そりゃあ環境が全然違うし、いろいろ見てて怖いって思うこともあるけど。でもライトとキールがいてくれて、私にも家族ができたみたいで嬉しいって思ってる」
「――え? 家族ができたみたいって……おまえも家族いないのか……?」
そこまで話したところで、キールの体のこわばりが少し解けたような気がした。
――考えてみたら、私自分のことって全然話してなかったわね。
特に隠してたわけじゃないんだけど。
「うん。私も幼少期に事故で両親を亡くしてて、本当の家族はもういないの」
「……そう、だったんだ」
「もちろん私は、二人ほど壮絶な人生を送ってきたわけじゃないけど。でもだから、私はここでの生活をけっこうエンジョイしてるのよ」
――もしかして、キールが私の世話係を引き受けたのって、私がこの世界に来たことに責任を感じてたからなのかな?
もしそうなら、少し寂しいけど解放してあげなきゃいけないわね。
この子には、私やライトとは別に待ってくれてる相手がいるんだから。
「――というわけだから、もしキールが世話係を辞めたいなら辞めてもいいわよ。怒られないように、ちゃんと私からライトに伝えてあげる」
「えっ!? いや、オレは……できれば辞めたくない……。ヒマリが嫌じゃなければ、だけど……」
キールはそう言って、遠慮がちにそっと少しだけくっついてくる。
その体は、少しだけ震えていた。
こんなことされたら、手放したくないって思っちゃう……。
いや、べつに変な意味ではなくてね?
「そ、そう? それならこれからもよろしくね! 園芸セットも届いたし、立派な野菜を作ってライトを驚かせましょう!」
「うん、そうだな! きっとライトには、そういう癒しが必要だと思う!」
うん。そしてそれは、君にも必要ね!
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