第28話 これはいいこと知っちゃった ♪

「ヒマリって、結構神経図太いよね。いや、何かあれば呼んでとは言ったけど」

「だって、初めて見る野菜だから分からなくて」

「それはそうだろうけど……」


 カーテンを戻し終えたあと、ステーキ豆の調理方法を聞きにライトの部屋へ行くと、机で作業をしていたライトは唖然として頭を抱えてしまった。

 というか、ノックすれば普通に入れてくれるのね。

 勝手には入るなってことなのか。


「もしかして忙しかった? ごめんね、それならまた今度にするわ」

「いや、大丈夫。行くからキッチンで待ってて」

「うん。――あの、ライト」

「うん?」

「私は偶然、しかも間違って召喚されたただけの人間だし、この世界の難しいことは分からないけど。でもライトのこと信じてるし、応援してるからね!」

「……え? は? え、ちょ――」


 私はライトの返答を待たず、扉を閉めてそのままキッチンへと向かった。

 正直、十歳の魔神相手にどう歩み寄ったらいいのかなんて分からないし、本当にそれが必要なことなのかも分からない。

 でも少なくともキールは、「普通に接してあげて」「ヒマリには期待してる」と私に助けを求めてきた。

 それにキールによると、ライト少しは私に懐いている可能性もあるらしいし。

 だったら――。


 キッチンで鶏つみれと根菜のスープを作っていると、ライトがやってきた。


「――ヒマリ、キールから何か聞いたの?」

「え、まあ、いろいろとふわっとは。でも細かいことは聞いてないわよ」

「いろいろとって?」

「それは秘密!」

「……言ってくれないと、キールを拷問して聞き出すことになるけど」


 ひどい脅し!

 この子、本当に私に懐いてる!?


「ま、待って! 分かったわよ。言うから!」


 私はライトのこれまでの経歴など、キールから聞いたことを思い出せる範囲でざっくりと説明した。


「あとは――何かと戦ってるとか、近々結果が分かるとか……?」

「……なるほど。まあ、オレの経歴については隠してたわけじゃないしどうでもいいけど。でも余計な詮索はしないでもらえると助かる。……できれば、ヒマリには何も知らずにいてほしい。そのためにこうやって囲ってるわけだしね」

「囲ってるって……言い方……」


 うーん、なかなかに難しいわね。

 やっぱり、ライトは私に歩み寄ってほしいとは思ってないってこと?


「――分かった。余計な詮索をするのはやめるわ。だからキールにひどいことしないで。キールは心底ライトのことを心配してて、自分じゃ何もできないからって私に――」

「……それは分かってる。キールは昔から全然言うこと聞かないし、迷惑ばっかりかけてくるし、ロードとして見ると最悪のサヴァントだけど。でも本当は――」


 ライトはぐっとこぶしを握り締め、そこで黙り込んでしまった。


「キールのこと、本当は大事にしてるのね。キールをここへ連れてきたのも、ただの義務感じゃないんでしょ?」

「……連れてきたのはオレの我儘だよ。――とにかく! オレのことはいいから、ヒマリはキールに優しくしてあげて。でもこの話はキールにするなよ。オレは立場上、あいつに優しくはできない」


 本当、どれだけいい子なのこの子たち。

 ――でも、こんな子が表情一つ変えずに暗殺や虐殺なんて、いったいどんな気持ちでいたんだろう?


「ねえ、私は一人だけど、一人にしか優しくできないなんてことはないわ。だからライトも、少しくらい頼って甘えてくれていいのよ?」

「……え、なっ――っはあ!? なっ、何言って――馬鹿なの!? べつにそんなことしたいなんて思ってないから! 余計なお世話だよ!」


 ――おお? 思った以上に動揺したわね。

 顔どころか耳まで真っ赤になってる。

 そうかそうか、ライトくんはそういうのをお求めかあ。


「ライトくーん、おいでー!」

「おまっ――ふざけるなよ! いい加減にしないと怒るぞ! あとその『くん』づけで呼ぶのやめろって言っただろ!」

「あはは、ごめんごめん。可愛くてつい」

「おまえ、いったいオレのことどう見えてんだよっ!?」


 ふふ、これはいいこと知っちゃった♪

 まあそうよね、大人ぶってても中身は十歳だもんね。

 少しは道が見えた気がするわ。


「――さて、晩ごはん作らなきゃね。ステーキ豆、どうやって調理するの?」

「はあ!? 話を逸らさ――ああもういいや。キールといいヒマリといい、まともにやり合ってると頭痛くなってくる……」


 ライトは顔が赤いのを隠すように冷蔵庫の横にある野菜籠へ向かい、ステーキ豆を取り出し用意を始めた。


「……じゃあやるぞ!」

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