第26話 五階の庭でプチピクニック
「――よし、完了! テーブルもいいけど、レジャーシート敷いて食べるのもありよね。カーテン、1枚借りて敷いたらまずいかな」
このフロアのカーテン、結構大きいし。
一枚あれば十分なスペースを確保できるし、芝生がふかふかでそんなに汚れなさそうだから、洗って戻せば分からないんじゃ――?
私はそう思ったが。
「いやいや、ライトの家のカーテンを敷いて座るなんて、バレたらオレは鞭打ち確定だよ。それにおまえの無事だって保証できないぞ」
「……それって、この間の金属でできた巨大シュガースティックみたいなやつ?」
「シュガー……? ああ、いや、さすがにあれではないと思いたいけど、それを決めるのはライトだからな。最悪地下で拷問レベルの苦痛を味わう可能性もあるし」
カーテン一枚で!?
たしかに褒められたことじゃないけど!
でも、さすがにそんなリスクは冒せないわね……。
そんな怖い目には遭いたくないし、遭わせたくもないし、今回は大人しくガーデンテーブルにしておこう。
テーブルにサンドイッチとりんごのうさぎが詰まった箱、取り皿とカトラリー、飲み物とカップを揃えていく。
「……カーテン、テーブルクロスにするのはだめかな?」
「やめとけって……。おまえオレのこと言えないぞそれ! 本当はここで勝手に食べるのだってだいぶリスキーなんだからな!」
「もう、分かったわよ。それじゃあ食べましょう! いただきます!」
「……昨日も思ったけど、そのいただきますって何? 誰に言ってんの?」
「ごはんのときの挨拶なのよ。食べ物と、関わった人すべてへの感謝の言葉」
「……へえ、変わってんな。まあでも、ヒマリがそうするって決めてるならオレも。いただきます」
キールは同じように手を合わせてくれた。
ライトもキールも、こういうとこ意外と素直よね。ふふっ。
サンドイッチは、我ながらバランスよく仕上がっていた。
刻んだロタスシャキシャキとした歯ごたえが、いいアクセントになってるわ。
レタスもたっぷり挟んだから、これ一つでそれなりに野菜も摂れるわね。
ハムと卵もたっぷりで、幸せ~♪
「――うまい。こんな具だくさんなサンドイッチ、初めて食べたよ」
「ふふ、気に入ってくれてよかった」
「――このりんご、変わった切り方だな。何か意味あるのか?」
「これはうさぎ――ってそうか、ここにはうさぎなんていないわよね……」
私はキールに、うさぎの説明をした。
そういえば、ここにも食肉があるってことは動物もいるはずだけど……。
うさぎはいないのかな。
「――ああ、人間界でよくキャラクターになってたあれか」
「キール人間界に行ったことあるの!?」
「あー、まあ一度だけ。それ以上のことは言えないけど」
気にはなるけど、嫌な予感しかしないので聞かないことにした。
まあ、悪魔だもんね。この子たちはこの子たちで、必死に生きてきたんだもんね。
何ともいえない気持ちでそんなことを考えていると、ふいに私とキールの体が光り始めた。【癒しの料理】の効果が発動したのだろう。
動き回って疲れた体が、じんわりと癒されていくのが分かる。
「すごいな。疲れも癒してくれんのかこれ」
「そうみたい。私も今まで気づいてなかったけど、疲れた状態で食べると結構はっきりと感じるわね。というかこの力、私自身にも効果あったんだ……」
「それなら、転移酔いにも効果あったんじゃないのか?」
「……そうかも。今度、何か外で手軽につまめるものを作っておかなきゃ」
私とキールは、他愛もない話をしながらサンドイッチとりんごを完食した。
前回は窓越しに見ただけだったが、晴れていて気温もちょうどよく、風も爽やかで過ごしやすい。
もしかしたら、外の天気と連動しているのかもしれないわね。転写らしいし。
「……なんか平和だな。ひとときのことでも、オレにもこんな時間が来るなんて思いもしなかったよ」
キールは、天井の空を見上げてそう言った。
気が抜けたような、疲れ切ったような、そんな声にも聞こえた。
「本当に壮絶よね。魔族ってみんなそうなの?」
「みんなじゃないけど多いよ。――でも、ライトはもっと辛い中で戦ってる。あいつの代わりはいないからな」
「……どういうこと? 魔神だから?」
「まあ、そこも含めて。おまえもここで暮らすなら、近々結果が分かるよ」
……戦ってる? 結果?
ライト、何かと戦ってるの?
「……そう。それなら、私は二人を信じて待つわ」
「はは、オレは役には立てないよ」
「じゃあ、一緒にライトを信じて待ちましょう。――さて、そろそろ続きをするかしらね! 私たちも、できることを頑張らないと!」
このペースでいけば、きっと陽が落ちる頃には片付きそうね。
せっかくなら、この家をピカピカにしてみせるわ!
「……おまえのその腹の座り具合、何なの?」
「だってどうせ帰れないし、よく分からないけど私が戦って勝てるとも思えないもの。それならここでやれることを見つけて、ライトを信じて私なりにやっていくしかないでしょ!」
「――まあそれもそうだな。よし、続きやるぞー!」
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