第五章 カーテン集めがてらお屋敷探索

第21話 キール、やっぱり女の子だった!

「今日からよろしくな、ヒマリ」

「こちらこそよろしくね」


 三人で一緒に食事をした翌日、キールが正式に私の世話係としてやってきた。

 キールは、料理以外の家事全般をやることになっているらしい。


「キールのことが不安なら、何か仕込んでおくけど。どうする?」

「仕込むって?」

「反抗したら激痛が走るとかそういうの」

「そ、そういうのはいいかな。でも何かあったら伝えるわ。伝えるからね、キール」

「お、おう……」


 こうしてライトは、キールに私を託して――いや、私にキールを託して仕事へ向かってしまった。

 よく考えたら、これって相互で監視させるのが目的なのでは!?


「私も一緒に手伝ってもいい?」

「えっ? いやでも……オレ一応、おまえの世話係なんだけど」

「いいじゃない、一緒に楽しくやりましょうよ」

「――うーん、まあいっか。何かあれば遠慮なく言って」

「分かったわ。あとごめん、もう一つ。キールって、本当は女の子よね?」

「あー、って――うえっ!? え、なんで? よく分かったな!?」


 キールはあからさまにうろたえ、なんでバレたんだという顔でこちらを見る。

 やっぱり! 絶対そうだと思った!!!

 見た目も声も中性的だけど、骨格がどう考えても男性じゃないもんね。

 べつに女性が女性らしくしなきゃいけないってこともないけど、そういう反応をするってことはやっぱり隠してたんだ。


「キールは中身が男性って感じじゃないわよね? なんで性別を隠してるの? ライトは、キールが女の子だって知ってる?」

「今は知ってるよ。でもちょっと前まで隠してたから、これはクセかな。……理由はいろいろあるけど、まああれだよ、オレ弱いから女だと危険なんだよ」


 キールは、自分は魔界で生まれた悪魔で、その中でも最下層の下級悪魔なのだと教えてくれた。

 魔塔界でも魔界でも、下級に位置する魔族は奴隷同然に扱われていて、衣食住も不安定な状況のなか危険な生活を強いられるという。


「――ライトはさ、元々は自分が魔神一族だって知らなくて、魔界でロードをしてたんだ。オレはそのときのサヴァント」

「ロード……って何? サヴァントの主ってこと?」

「まあそんな感じかな。サヴァントの所有者的なポジション。魔界でもここでもそうだけど、各魔族世界に何人かのロードがいて、その下にサヴァントがいる。あとはそういうグループに属してない一般魔族もいるけど」


 キールいわく、魔神が全魔族の頂点に立ち、その下に各魔族世界の王――つまり魔王がいて、その下に貴族やロードと呼ばれる上級魔族、さらに下に中級魔族である上位のサヴァントと一般悪魔、そして最下層に下位のサヴァントや奴隷がいる、という構造になっているらしい。

 なるほど、つまりライトとキールは――。


「……状況、読めた? 本来オレは、こんな頂点が暮らす場所にいていい魔族じゃないんだよ。だから帳尻合わせのためってのもあって、何かやらかすと本当にひどい目に遭わされる。実際、何度か耐え切れずに壊れて記憶消されてるしな。はは」


 いや、「はは」って全然笑えないわ!

 その帳尻合わせはちょっと理不尽すぎない!?

 キールをここに連れてきたの、ライトなのよね!?

 ――でも、だとするならなおさら。


「その状況でよく忍び込んで食べ物を盗もうなんて考えたわね!?」

「いやだって、キルスの機嫌を損ねたりいろいろで、しょっちゅう食料を封じられるからさ……しかもあいつ忙しいからそのまま忘れるし……。キルスの家とここ、ライトの転移魔法で繋がってるから、危険を冒さずに行き来できるんだよ……」


 だからってその先で危険な目に遭ったら意味なくない!?

 ――いや、外に出たら殺される危険性があるけど、ライトなら怒らせても殺されることはないからセーフってこと!?

 そのキルスとやらに謝って許してもらうことはできないの?

 もう本当、本当になんとかしたいわこの世界!

 キールもライトも、環境が環境なら絶対いい子なのに!!!


「――わ、分かったわ。今日から私がキールのごはん作ってあげる。だから勝手にキッチンに忍び込んで食料漁るのはやめなさい。いいわね?」

「お、おう? でも、ヒマリになんのメリットが?」

「キールがひどい目に遭うのが嫌だからよ!」

「……え? なんで? なんかあんの?」


 なんでって……そんな心底驚いたような顔で言わないでよ……。

 目頭が熱くなり、じわっと涙が滲むのを感じる。

 私が泣いてもどうしようもないのに。ないけど! でも!


「――次そういうこと言ったら抱きしめるわよ! いいわね!?」

「ええ……?」


 私は困惑するキールを見なかったことにして、掃除を始めるべくランドリールームへ向かったのだった。

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