第四章 少しずつ、周囲のことを
第16話 聖女が消えた!?【side:天界】
場所は変わって、天界の神殿。
そこで働く女神エリスは、思いもよらない事態の発生に混乱していた。
「どうしよう? そんなことある!? とにかくまずは報告しなきゃ……」
自分ではどうしようもないと考えたのか、エリスは先輩女神であるリールへ報告しに、彼女の執務室へと向かう。
ドアをノックをすると、「は~い。どうぞ~!」といつも通りの穏やかな声が返ってきた。いつもなら安心するその声に、今は心がキュッとなる。
「あの、リール、ちょっと相談が……」
「あらエリス、どうしたの? ちょうどおいしいお菓子があるの。食べる?」
「え、えっと……今はそれどころじゃなくて……」
「――何かあったの? とりあえず入って座って」
リールはエリスの思いつめた様子に気づいて席を立ち、執務室内のソファへ座るよう促した。
そして自分もエリスの正面へ座り、エリスが話し始めるのを待つ。
エリスはどう説明したものかと考えていたが、しばらくしたのち口を開いた。
「あの……実は……聖女に選んだ女の子が突然消えちゃって……」
「――消えた? どういうこと? 死んじゃったってこと――じゃないわよね?」
「死んだんじゃなくて……よく分からないけど、とにかく消えたの」
エリスはリールに、できる限り詳細に状況を報告した。
適性値の最終確認を終えて、聖女認定は無事完了したこと。
スキル【癒しの料理】と【聖なる光】、特典のステータス画面とアイテムボックスも付与し終え、何も問題らしき問題は起こらなかったこと。
しかし報告書を作成してから再確認したところ、聖女の姿がなかったこと。
報告書は事前にほとんど埋めてあったため、作成には十分程度しかかかっていないこと。などなど。
「人間は魔法が使えないのよ? 消えるなんてそんな――」
「でも私、消えた直後に人間界へ行って、さっきまでずっと探してたの。なのに気配すら感じられなくて……」
「どうしてすぐに教えてくれなかったの? こんなに時間が経ってからじゃ、辿れる気配も辿れなくなっちゃうわ」
「ごめんなさい……リールに迷惑かけたくなくて……。それに、まさかこんなに見つからないなんて思わなかったから……」
聖女認定はたしかに人体への負荷がかかるため、適性値を見誤ると命の危険にさらしてしまう可能性もある。
しかし、よほどのミスをしない限り消し飛ぶなんてことはないし、これまでにもそんな事例は聞いたことがなかった。
でも、もしこちらのミスで人を一人消してしまったのだとしたら大問題だ。
「……リール、どうしよう? 私本当にちゃんと確認したわ」
「落ち着いて。分かってる。あなたがそんな雑な儀式をするなんて思ってないわ」
涙ながらに訴えるエリスを落ち着かせようと、リールはエリスの横へ行ってそっと抱きしめ、頭をなでる。
エリスは神になって年数が浅く、多少未熟な面もある。
でも、誰よりも真面目で丁寧な仕事をしてくれる頑張り屋さんだ。
エリスの教育係を任されていたリールは、その頑張りをずっと身近で見てきた。
――いったいどういうこと?
人間の世界は人間界で完結してるはずなのに、消えたってどこに?
可能性があるとするなら魔族に攫われるくらいだけど、でも儀式の情報も聖女の選定も私たち以外知らないはずだし、そんな短時間で連れ去るなんて――。
まさか情報が漏れた? だとしたら、どこから?
「――いったん、リクルかマフィーに相談しましょう」
「……うん。聖女の子、無事かな。私が殺してたらどうしよう?」
「適性値は私も確認してるわ。あれだけの適性があって痕跡すら残らない状態にしちゃうなんて、そんなのありえない。きっとどこかにいるはずよ」
リールはできる限り心を落ち着けてエリスにそう言い聞かせたが、内心では状況が理解できず、頭を抱えるしかなかった。
本当に、どういうことなの……?
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