第17話 キールが私の世話係になった
「ただいま。ヒマリ、ちょっといい?」
「おかえりなさいライト。――って、キール?」
「お、おう。早速会ったな」
夜、帰宅したライトは、なぜかキールを連れていた。
いやまあ、なんだかんだで近しい関係っぽいし、よく来るって言ってたし?
二人にとっては普通のことなのかも――なんて思ってたけど。
「今日から、キールにヒマリの世話係をやらせることにしたから」
「えっ!?」
「いろいろ考えたけど、ヒマリに付けても問題なさそうなのがこいつしかいなくて。まあこの家はオレの管理下にあるし、脅威となるのは一族くらいだけどなぜかヒマリのこと見えないし、二人なら既に知り合いだし、これはこれでありかなって」
「え、待って。この子勝手に家に侵入するような子なのよね? 大丈夫?」
キールのことは話しやすくて好きだけど、なんかこう、そういうのに適してるとは思えないというか! 逆に私が苦労しそうというか!
本当、もっとほかにいなかったの!?
「あはは、大丈夫だよ。次なんかやらかしたら、地下で死ぬより辛い目に遭わすから♪ ――キールも分かってるね?」
「……わ、分かってるよっ!」
キールの胸倉を掴んで念を押すライトからは、殺気にも似た圧を感じる。
それを直接的に受けたキールは硬直し、半泣きで顔を引きつらせていた。
本当、この二人の関係って読めないな……。
「わ、分かったからそんな乱暴しないで! よろしくねキール!」
「お、おう。よろしく」
まったくもう。
二人とも、悪い子ではないと思うんだけどね……。
「――あ、そうだ。そういえばまだ外に連れていってなかったよね? 今日は少し余裕があるから、今のうちに三人で買い物でも行く?」
「いいの!? 行きたい!」
「……え、三人? オレも行くの!?」
「もう夜だし、ヒマリは飛べないから転移で行くよ」
キールの言葉はスルーされ、ライトの転移魔法で世界がぐにゃりと揺れた。
うっ――何これ気持ち悪い……。
◆◆◆
「――ヒマリ、大丈夫? 転移酔いしたかな」
「ちょ――っと待って。眩暈と吐き気がひどくて立ち上がれない……」
初めての転移で、私は盛大に「転移酔い」なるものを経験した。
視界がぐるぐるまわり、気を抜くと吐いてしまいそうなくらいに気持ち悪い。
転移ってこんなにダメージの大きい魔法だったの!?
ライトはいつも当たり前みたいに使ってるのに!
「転移酔いは魔力酔いの一種だから、回復魔法は効かないんだよね。頑張って」
「頑張ってっておまえ……。そこのベンチで休ませた方がいいんじゃ」
「しょうがないなあ。ほらヒマリ、立って」
キールの提案で道の脇のベンチまでどうにか移動し、しばらく休むことになった。
――にしても、魔族が暮らす町っていうからもっとおどろおどろしい町を想像してたけど、けっこう普通に中世のヨーロッパみたいな感じなのね。
まるでRPGの世界に迷い込んだみたいだわ。ちょっと好みかも!
私はそんなことを考えながら、少しの間ベンチで休憩させてもらった。
「――ありがとう。だいぶラクになったわ。もう大丈夫」
「ん。じゃあ行こうか。オレもいろいろ買いたいものがあるしね。キールも何か必要なものがあるなら買うよ。これからヒマリの世話係をやってもらうし」
「じゃあ包帯を買い換えようかな? あとは傷薬と、いざというときの痛み止めも……」
キールの必要なもの、聞いててこっちの胸が苦しくなってくるわ。
この二人、なんでこんなに仲良い状態を保ててるの?
「オレは鞭でも買い換えようかな。おまえのせいですぐボロボロになるし」
「いや、それはオレがいないときでよくない!? なんの嫌がらせだよ! というかヒマリ何も知らなさそうだし怖がられるぞ!」
「あはは。地下での惨状を見せたら失神しそうだよね。でも少しくらいは現実も見せておいた方がいいかなって。変な動きをされても困るし」
なんか日常会話みたいに喋ってるけど、内容が怖すぎる!
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